PO進出、夢のような90分間 「歴代最強ロアッソ」見るなら今!<WEBコラム・赤馬のキセキ>
夢のような90分間だった。8日、熊本市東区のえがお健康スタジアムであったサッカーJ2第40節。ロアッソ熊本は今季最多の5ゴールを決めて群馬を破り、クラブ初のJ1参入プレーオフ進出を力強く決めた。
2008年のJリーグ加盟後のロアッソは中位~下位が指定席だった。記者が担当した18年には初のJ3降格という屈辱も経験。「こんなに勝てるようになるのか」。相手を圧倒する戦いぶりを見ながら、大木武監督率いる22年版ロアッソの強さを改めて実感した。
運動部でロアッソを担当するのは3度目。過去2回は負けることの方が多く、勝ち試合の原稿を書く時はうれしさで筆が躍った。
最初の担当は20代半ばだった08年から2年間。池谷友良監督体制で臨んだJ2初年度は最多72失点を喫し、10勝13分け19敗の12位(15チーム制、42試合)。09年は北野誠監督の下、16勝10分け25敗の14位(18チーム制、51試合)と苦しんだ。
2度目の18年は渋谷洋樹監督が指揮し、現行の42試合で9勝7分け26敗の22チーム中21位。5月下旬から8月上旬までクラブ史上最長の13戦勝ちなしと低迷。熊日紙面には「ロアッソよ 目を覚ませ」「赤馬 レッドゾーン」とチームを叱咤(しった)する見出しが続いた。
北野監督や渋谷監督が目指したのはボールをつなぐサッカー。見て楽しい、やって楽しいスタイルを模索したが結果が伴わなかった。パス回しを奪われ、カウンターから失点する場面を記者席から何度も見た。「パスをつなぐには個人の技術が必要。熊本の選手にはそれが足りない」。クラブ関係者から何度も聞かされた。失意の思いでJ3降格記事を書きながら、理想と現実のギャップを痛感した。「ロアッソがパスサッカーでJ2を勝ち続けるのは無理なのか」-。
その難題を今季の〝大木ロアッソ〟が明快に解いてくれた。前へ前へと出る攻守に積極的なプレーと90分間足を止めない運動量-。4季ぶりのJ2で横浜Cや長崎などJ1経験クラブを破り、堂々と上位争いを繰り広げている。
ロアッソはJ3降格以前から選手育成型のチーム作りへかじを切っており、現在の織田秀和ゼネラルマネジャー体制となった18年以降、その色をより濃くし、大卒新人を鍛え上げることでチームづくりを進めている。MF河原創主将、MF竹本雄飛、DF菅田真啓ら現在の主力は、20年から指揮を執る大木監督の下でJリーグデビューした〝たたき上げ〟たちだ。
選手同士がコンパクトな距離感を保ち、とにかくボールがつながる。頻繁にポジションチェンジを繰り返し、内から外から攻撃を仕掛ける。守りを固めた相手をテンポの良いボールタッチで崩し得点を奪う光景に、シーズン中に何度も目を奪われた。8日の群馬戦の5ゴールは、いずれも今季の熊本の魅力が詰まっていた。
クラブ史に新たなページを刻んだ勝利を見守ったサポーターは5472人。得点のたびにボルテージが上がる会場の雰囲気は最高だった。ただ正直、物足りなさも感じた。勝てば初のプレーオフが決まる試合に、今季最多の観客数とはなったものの、前節の秋田戦を44人上回るだけにとどまった。同じ日に、6年ぶりのJ1復帰を決めた新潟はホームに約3万3千人が詰めかけていた。競技場の交通アクセスなど一朝一夕に解決できる問題ではないが、伝える側の人間として入場者数の伸び悩みは歯がゆい。
今季のロアッソは歴代最強と言っても過言ではない。ワクワクさせる試合を続けている。プレーオフ確定を喜ぶ観客の声を取材してもらった社会部の若手記者は、「子どもの頃に連れていってもらったロアッソとは全然違った。よく走るし、内容も面白い」と久々の観戦を楽しんでいた。
このロアッソは、今しか見られない。プレーオフを含めても、ホームで試合があるのは最大であと3試合。まだ見ぬ高みに挑む赤馬イレブンの奮闘を、もっと多くの人に現場で見てほしい。(後藤幸樹)
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