家族は多様、支え合う社会に 「ベイビー・ブローカー」是枝監督に聞く <命の場所 ゆりかご15年> 

熊本日日新聞 | 2022年7月1日 08:00

 ■これえだ・ひろかず 1962年、東京都生まれ。早稲田大卒業後、テレビのドキュメンタリー番組を手掛け、95年に映画「幻の光」で監督デビュー。4作目の「誰も知らない」がカンヌ国際映画祭で男優賞を受賞。その後も国内外で高く評価され、カンヌでは「そして父になる」の審査員賞、「万引き家族」での最高賞パルムドールに続き、「ベイビー・ブローカー」で主演の韓国人俳優ソン・ガンホさんが男優賞を受けた。

 公開中の映画「ベイビー・ブローカー」は、親が育てられない子どもを預ける韓国の「ベビーボックス(赤ちゃんポスト)」がテーマだ。脚本も手掛けた是枝裕和監督が注目したきっかけは、熊本市の慈恵病院が取り組む「こうのとりのゆりかご」だったという。作品を通し「子どもや母親を支え合う社会」を模索した是枝監督に、その思いを聞いた。(小多崇)

 -なぜ、赤ちゃんポストに関心を持ったのですか。

 「(子どもの取り違えをテーマにした)『そして父になる』の製作準備中の2012年、養子縁組や里親制度を調べる過程でゆりかごを知り、慈恵病院の蓮田太二前院長(故人)の本を読んだのがきっかけ。当時、韓国のベビーボックスには、日本よりはるかに多くの子どもが預けられていた」

 -映画は違法な縁組をするブローカーと、赤ちゃんを預けた母親が一緒に養親を探します。

 「赤ちゃんを誰が支え、幸せにできるのか。登場人物の会話を通し、そのディスカッションに観客を巻き込みたかった。韓国で取材した際、養護施設に置き去りにされた人たちは『生まれてきてよかったのか』と自問し続け、自分を肯定できないまま大人になっていた。この人たちの不安に、きちんと応える責任が社会にはある。命をどう支え合っていくのかという課題にたどり着きたいと考えた」

 -理想の家族を描くというより、多様な家族像が浮かびます。

 「日本では血縁を理想とする余り、結果として家族が破綻するケースが多い。しかし行政や政治は、血縁の家族があるべき姿だという文言をさまざまな場面に盛り込んでいる。現実の多様な家族を捉えきれていない。多様性に応じるには制度を変えなければならないが、こぼれた人々を家族と認めず、制度に従わせようとしている」

映画「ベイビー・ブローカー」よりⓒ 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED 配給:ギャガ

 -そのひずみが、特に母親を追い詰めています。

 「韓国でベビーボックスを運営する教会は、母親にまず『あなたは赤ちゃんの命を救った。ありがとう』と声をかける。ただ、世間の目は韓国も日本と同様、母親に厳しい」

 「母親だけに荷を負わせず、そばにいる人が支え、そうできない人は遠くから優しく見つめる。小さなベビーボックスではなく、社会が大きなボックスとなって、その中心に赤ちゃんを置く。映画でブローカーが『一人で全部やらなくていい』と語りかけるが、支え合える社会になれば、ボックスも不要になるはずだ」

 -一方で子どもたちにとって自らの血縁、出自が持つ意味は大きいのでは。

 「映画では、自らの出自をたどれない男性が怒り、一方で赤ちゃんの母親は『親の顔なんて知らないほうがいい』と語る。一概には言えず、個々のケースで違うと思う。出自を知る権利とのバランスは難しく正直、僕自身に答えはない」

 -監督の初映像作品は、水俣病を巡る訴訟で国側の責任者だった官僚の自死を追ったドキュメンタリー番組です。

 「最初、官僚は弱者を切り捨てる悪と考え、白と黒で分かりやすく描こうとした。しかし、(亡くなった官僚は)そうではなかった。対立でなく、グレーで見ないと現実を捉えきれない。自分が考えるより世界は複雑だと気付かせてくれたという意味で、彼が原点だ」

 「慈恵病院のゆりかごも、この15年で存在の是非というより、どのようにあるべきかを社会が考えるようになってきた。どうあれば赤ちゃんと母親にとってプラスになるのか、模索する段階に入ったように感じる」

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