集落再生、道半ば 南阿蘇村立野地区、農地眠ったまま

熊本日日新聞 | 2021年04月15日 16:00

国道57号(右)北側の新所区の農地。手入れが行き届かず、雑草が生い茂ってイノシシに踏み荒らされた場所も多い=14日、南阿蘇村(小型無人機で撮影)

 熊本地震で甚大な被害を受けた南阿蘇村立野地区。この5年で復旧が進んだ交通アクセスとは対照的に、農地は地震前の光景に程遠い。用水路の修復が厳しいことに加え、地区の高齢化や人口減少が加速しているためだ。そうした中、3月に開通した地区を通る新阿蘇大橋の建設のため国が地元農家らから借りていた農地は返還に向け復旧工事が始まる。

 「ここも、あそこも田んぼだったとよ」。国に約1・4ヘクタールを貸した後藤百代さん(76)が指さした先には多数の石が転がり、隅に寄せられた水田の表土は草で覆われている。「立派な橋ができたのはいいけれど、やっぱり寂しか」と話す。

 新阿蘇大橋建設に際し、国土交通省は地権者15人から周辺の農地約5・7ヘクタールを、資材や重機置き場などとして賃借。本年度、除去していた表土を戻すなど復旧させる計画で、熊本復興事務所は「年度内に引き渡しを終えたい」としている。

 後藤さんは、東京に住む次女の夫が「オリーブ園をしたい」と後継を申し出ており、返還を心待ちにしている。一方で、「地元に残っているのは年寄りばかり。農地があっても再開できる人は限られる」と懸念する。

 言葉通りの光景が、地区に広がる。地震前は360世帯が暮らしていたが、3月末現在で200世帯に減少。村によると、震災以降、地区の農地計55ヘクタールでは、稲作が一度も行われていない。特に国道57号の北側は手入れの行き届いていない農地が目立ち、獣害も増えている。

 農業用水の確保も道半ばだ。村は県阿蘇地域振興局と連携し、19年に幹線水路の復旧と試験通水を終えた。だが、幹線から各水田を結ぶ支線の被災状況は現在も調査中。支線は地下にも張り巡らされており、村農政課は「全容把握は困難。農家の協力で支線に通水を重ね、その都度、被災箇所を修復する」としている。新所区の本田洋子さん(77)は「本来なら田植え前の水が張っている時期。来年は少しでも田園風景が戻ると良いのだが…」と期待する。

 地区で観光イチゴ園などを営む木之内均・東海大経営学部長(59)は「急斜面沿いに農地がある立野は効率いい農業に適さず、地区が緩やかに衰退していたのが震災で一気に加速した」と指摘。「若い担い手がおらず、集落営農も期待できない」と説明する。

 その上で、耕作放棄地の減少策について「公的支援で基盤整備をして、少しでも効率いい農地に変えることが重要。実現すれば、(地区外の)農家が新たな担い手になる可能性はある」と話している。(上杉勇太)

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