五つの「心」店名に込め再開 熊本地震で被災した夫妻 ダウン症女性の言葉が後押し

熊本日日新聞 | 2021年04月12日 06:59

自分で書いた「五心のやさしいです」の文字を手に、ほほ笑む和田朋子さん。後ろは母親の緑さん=菊池市
「地道に頑張っていきたい」と話すダイニング・カフェ「gocoro」の出野靖雄さん。手前は和田朋子さんの手書きの「五心のやさしいです」の文字=熊本市東区

 昨年12月、熊本市東区八反田の住宅街の一角に本格オープンしたダイニング・カフェ「gocoro(ゴコロ)」。出野靖雄さん(56)、由紀子さん(51)夫妻が本格欧風料理を手掛ける。夫妻は5年前、南阿蘇村で営んでいた温泉宿を熊本地震で失った。失意の中、店の再開を後押ししたのは、合志市の親子にもらった「五心」という言葉だった。

 夫妻は、靖雄さんの両親が1991年に南阿蘇村に開業した「ログ山荘火の鳥」を一緒に切り盛りした。しかし、地震で宿が土砂にのまれ、宿泊客が犠牲になった。想定外の災害だったが、一家は自責の念に苦しんだ。

 震災から1年後。再会した遺族から思いがけずいたわりの言葉を掛けられ、「ありがたかった」と靖雄さん。しかし、「家族から笑いが無くなり、前を向けずにいた」。

 店の再開を悩んでいた2018年ごろ。「火の鳥」時代から仕事で付き合いのあった和田緑さん(72)=合志市=から食事に誘われた。和田さんは被災当時、ダウン症の娘朋子さん(45)と益城町の避難所で炊き出しボランティアをしながら、夫妻のことをずっと気に掛けていた。

 食事会で、和田さんから「会話や読み書きが苦手な娘が初めて手紙を書いた」と聞いた。被災当時、和田さんに物資を送ってくれた支援者にお礼の手紙をと、朋子さんに筆ペンを渡したところ、「五心のやさしいです」と書いたという。

 和田さんは驚いて「五心」の意味を尋ねると、朋子さんは「優しい、純粋、ふるさと、お父さん、お母さんの心」と答えた。「自分の名前もうまく書けないのに、奇跡的だった」と和田さん。出野さんを励まそうと、そのエピソードを紹介した。

 朋子さんの文字を見て、出野さん夫妻はすぐに「五心を新しい店名にしたい」と和田さんに持ち掛けた。由紀子さんは「『五心』に込められた思いが、自分たちの境遇と重なった」と振り返る。

 夫妻には「南阿蘇村で温泉宿を再開させたい」という思いもあるが、朋子さんの「五心」という言葉に出合い、「まずは新しい土地で頑張ろう」と熊本市での再開を決意した。

 夫妻は今春、「火の鳥」の常連客に開店の知らせを送った。店名は店の雰囲気に合わせてローマ字で「gocoro」とし、朋子さんの手書きの文字を店内に飾った。和田さんは「朋子の言葉が、こんな形で後押しになるとは思わなかった」と喜ぶ。

 「常連さんから早速連絡があり、人の温かさを実感している」と出野さん夫妻。「再開して良かった」と思えるよう一歩ずつ歩み始めた。(深川杏樹)

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