日帰り温泉で復活 熊本地震で被災の老舗・山口旅館、4月16日再開

熊本日日新聞 | 2021年03月31日 07:50

垂玉温泉の泉源を生んだとされる金龍の滝(後方)の前で笑顔をみせる山口雄也さん=3月24日、南阿蘇村
熊本地震の本震に耐えた山口旅館の巨大な石垣(小型無人機で撮影)

 「また多くの人が集い、癒やされる場所にしたい」。熊本地震で甚大な被害を受けた南阿蘇村河陽の垂玉温泉・山口旅館が、本震から丸5年となる4月16日、日帰り温泉「瀧日和[たきびより]」として復活する。8代目の山口雄也さん(40)は、変わらずに湧き出す泉源への感謝を胸に、新たな一歩を踏み出す。

 旅館は1886(明治19)年創業。落差が約60メートルで、施設のシンボルでもある「金龍の滝」の真下に構えた露天風呂が好評だった。北原白秋ら「五足の靴」の一行が滞在したことでも知られ、南阿蘇の代表的な温泉宿として親しまれてきた。

 本震当日、旅館には宿泊客と従業員計17人がいた。大津町の自宅マンションにいた山口さんは、姉に連絡して全員の無事を確認。だが、村道が寸断して旅館は孤立した。宿泊客らは自衛隊のヘリで救助されたが、「助けに行けず、無力さともどかしさを感じた」と当時を振り返る。

 ようやく旅館に行くことができたのは5月上旬。「施設はどうなっているのか…」。気をもみながら1時間以上歩いた先の光景に言葉を失った。建物は残っていたが、滝の直上で牧野が幅20メートルにわたって崩壊。泉源と名物の露天風呂は土砂で埋め尽くされていた。

 絶望的な状況の中、二つの“宝物”は奇跡的に無事だった。一つは泉源。山口さんが諦めながら泉源近くを掘り返すと、お湯が流れ出た。手触りや鉄分の多い独特の匂いに、「垂玉温泉だと確信した」と言う。

 もう一つは、創業当時から建物を支えていた巨大な石垣。地震に耐え、変わらぬ威容を誇っていた。「まだやれる」。山口さんの心に再起への光がともった。

 ただ、地震で孤立し、1953(昭和28)年の水害でも旅館は被災した経験から、宿泊施設を続けることに不安もあった。先代の父一尚さん(76)と何度も話し合った末、「旅館存続にはこだわらない。垂玉温泉とお客さんを守ろう」と、日帰り温泉への転換を決めた。昨年3月、村道の寸断解消とともに、営業再開に向けた工事に着手した。

 金龍の滝への敬意を込めて名付けた「瀧日和」は、改装した大浴場と露天風呂、貸し切り風呂に加え、受け付けにカフェスペースを併設。温泉熱を利用した蒸し窯も備え、温野菜なども楽しめる。温泉へ向かう下り階段の左右には、石垣が頼もしくそびえる。

 「立ち寄りの湯治場としてにぎわったのが垂玉温泉のルーツ。原点回帰したつもりでたくさんの人を迎えたい」。山口さんは、130年以上続く温泉を守り抜く決意を口にした。(上杉勇太)

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