【あの時何が 県災害対策本部編④】「落ち着け!」浮足立つ職員を一喝

「落ち着け! 一度仕事をやめろ」。陸上自衛隊出身の県危機管理防災企画監、有浦隆(59)はフロアに響き渡る大声で一喝した。静まり返る職員たち。一呼吸置き「情報班! 助けられる命がどこにあるか探せ」「総括班は次の動きを考えろ」と指示を出した。
人命救助の目安とされる「72時間の壁」。昨年4月16日未明の本震直後、県庁新館10階の県防災センターで、有浦は人命救助の指揮官として救命を阻む壁と戦っていた。
有浦は陸自幹部として豊富な救助現場の経験を買われ、知事、蒲島郁夫(70)から指揮を任された。しかし、度重なる余震の中、災害対策本部の指揮系統は混乱していた。
怒号が飛び交い、戸惑いの声が漏れた。多くの職員が何をするべきか見失い、浮足立っていた。有浦の一喝で刻一刻と危機が迫る命を救うための態勢が再び前に動きだした。
部隊が足りない救助現場はないか、機材は十分か-。有浦は14日夜の前震後すぐに県警や消防、自衛隊、国土交通省など関係機関で構成する「活動調整会議」の開催を提案。以来、朝、夕の2回開いてきた。
益城町や南阿蘇村、西原村などで救助活動を急ぐ各機関の情報を整理し、担当するエリアや投入する人数を調整した。行方不明者の情報があれば、その都度、連絡員を集めて対応を協議。活動調整会議では「持ち帰って判断」を許さず、あいまいな回答には「待てません! 今決めましょう」と迫った。
雲仙・普賢岳の噴火災害や阪神大震災、東日本大震災など数多くの現場を踏んだ有浦。当時の県や地元市町村の対応の遅さに「権限のある人を連れてきてください」と声を荒らげたことも一度や二度ではない。だからこそ今回、緊迫した現場からの情報に即時に判断することを自らに課した。
4月21日、約150人が避難していた南阿蘇村立野の旧立野小。午前9時40分ごろ、有浦に県警の連絡員から情報が入った。「小学校の北側斜面が崩壊する危険がある。移動が必要だ」
ほぼ同時刻、熊本地方気象台から「阿蘇地方で大雨の恐れ」の連絡。急な斜面が人家に迫る立野地区は本震で阿蘇大橋が崩落し、逃げ道は大津町方面にしかない。有浦は即座に自衛隊に“再避難”への支援を要請。住民たちは1時間足らずで警察や自衛隊の車両、自家用車などに分乗し、大津町へ出発した。
この日の大雨で被害はなかった。ただ、その後、6月下旬の大雨で立野地区は一時、隣接する大津町との境の国道57号が土砂で埋まり、孤立した。
「あの時の的確な判断で150人の孤立を防いだ」。再避難を現場で支援した南阿蘇村企画観光課主幹、今村一行(46)は振り返る。(並松昭光)=文中敬称略
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