【あの時何が 県災害対策本部編③】突然の本震 人手足りず飛び交う怒号
熊本県の災害対策本部が置かれた県庁新館10階の県危機管理防災課。審議員兼課長補佐、田口雄一(50)は前震から28時間ぶっ通しで対応に追われ、椅子に座ったまま眠りに落ちていた。
「ドン!」。突然の突き上げとともに部屋の明かりが全て消えた。右へ、左へ、身体が激しく揺さぶられた。書棚が倒れ、机上の書類が飛び散った。声も出ない恐怖の中、暗闇に緊急地震速報のブザー音と「地震です」という音声が幾重にも響いた。昨年4月16日午前1時25分。熊本地震の本震だった。
「けがはないか!」。揺れが収まると同時に、残っていた約20人の職員に向かって叫んだ。
田口らは前夜に続き、県の地域振興局に電話で被害状況の確認を始めた。振興局に集まった市町村の情報や県警警備部の連絡員の情報は耳を疑うものばかりだった。「複数の生き埋め」「倒壊家屋多数」「阿蘇大橋が崩壊」…。ホワイトボードは次々と被害情報で埋まっていった。
被害地域が広がり、避難者も激増。田口は「被害の情報だけでなく、避難所の物資不足の情報が一気に押し寄せた」と振り返る。
県には有事に、危機管理防災課に勤務した経験のある職員が同課に応援に駆け付けるルールがあった。これに従い前震後、約10人の経験者を加え約40人態勢に強化していたが、鳴りやまない電話に対応できずにいた。
一方、支援物資の問い合わせで電話を回した福祉関係の部署も人手不足に陥っていた。「何でもうちに押し付けるな!」。電話口で担当者同士の怒号が飛び交った。
県知事公室長、田嶋徹(61)は、支援物資の集積拠点になるはずだったグランメッセ熊本(益城町)の被災に衝撃を受けていた。
県は九州東海岸で甚大な被害が想定される南海トラフ巨大地震に備え、「九州を支える広域防災拠点」を掲げていた。しかし、重要な輸送路の九州自動車道や主要国道が寸断。物流も止まった。「自らが被災する」という発想が欠落していたことを突き付けられた。
「グランメッセは使えない」。思いを巡らす時間はなかった。県健康福祉政策課長、野尾晴一朗(53)らに代替倉庫の確保を指示。自らも携帯電話で手当たり次第、企業関係者に連絡を取った。それでも代替の倉庫を確保できたのは10日後。その間、全国からの支援物資は県庁新館ロビーに積み上がった。
「これから回復できると思ったのに」。被害状況が明らかになり始めた16日朝、知事秘書の原裕貴(41)は、知事、蒲島郁夫(70)のつぶやきを聞いた。
先が読めない混乱の中、「次に何をするべきか」。蒲島が手掛かりを求めたのが、過去の震災だった。執務室に阪神大震災や東日本大震災に関する書籍を集め、読み込みながらマーカーペンを走らせた。(並松昭光)=文中敬称略、肩書は当時
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