【あの時何が 県災害対策本部編⑤】国と県つないだ「ミニ霞が関」
「官邸から青空避難の解消を強く指示されている」。熊本地震の前震発生を受け4月15日午前、県庁に入った内閣府副大臣、松本文明(68)が知事、蒲島郁夫(70)に迫った。
大きな余震への恐れから屋外が安全と感じていた避難者を、テレビ報道などで「避難所の不足」と官邸は受け止めた。事情を説明しながら、蒲島は認識の違いを痛感した。
県庁新館10階の県災害対策本部と、2階に同日から設けられた政府の現地対策本部(政府現対)。政府代表の松本は16日、官邸とのテレビ会議で自分の食事を“強要”し、20日に更迭されたが、午前と午後の1日2回の合同会議は続いた。
ただ、100人前後の県と国の関係者が顔を合わせたものの、それぞれの状況報告に終始。双方から意思疎通の不足を案じる声は少なくなかった。
県危機管理防災課長、沼川敦彦(54)は行方不明者数をたびたび問い合わせる政府現対にいら立ちを感じていた。消防と警察で異なる報告に確認を急いでいたが、まだ数を合わせる段階ではなかった。「情報が錯綜していて」。込み上げる怒りを抑え、答えた。
「互いに言いたいことが言えない空気が流れていた」。内閣官房内閣審議官として19日に政府現対に入った兵谷芳康(58)も県と国の“距離”が気になった。総務省出身で2008年から4年間、熊本県の副知事を務めた兵谷。県庁内の座席表を手に顔なじみの幹部に電話をかけ始めた。
避難所の過密、救援物資の不足、幹線道路の寸断…。課題は山ほどあった。「合同会議とは別に県と国が本音で情報交換し、対応を詰める場が必要だった」と兵谷。
農林水産省や経済産業省、国土交通省などから政府現対に派遣されていたメンバーは、熊本のローマ字の頭文字と派遣メンバーの数から「K9(ケイナイン)」と呼ぶ会議を設けていた。兵谷は、ここに県幹部を加えようと提案。22日にスタートした新しい会議は、「拡大K9」と呼ばれるようになった。
兵谷を中心に拡大K9は毎日、県と政府の両対策本部の合同会議後に開催。省庁のメンバーは官房長や局長ら幹部級で、「本省への持ち帰り」をせず、解消策をその場で判断することを原則とした。
避難所の暑さ対策には経産省が動いた。「全国にある大型クーラーのうち、〇台なら今すぐ手配できる」。国交省は避難所の過密対策として、被災した公営住宅の改修を急いだ。拡大K9のメンバーだった県知事公室の政策審議監、坂本浩(58)は「本来なら本省との協議や予算が必要で時間がかかる。県だけであのスピード感は出せなかった」。
がれき撤去や避難所トイレの環境改善なども課題に挙がった。県と国を結び付ける「ミニ霞が関」(兵谷)となった拡大K9は約1カ月後の5月27日まで続いた。(並松昭光)=文中敬称略、肩書は当時
RECOMMEND
あなたにおすすめPICK UP
注目コンテンツTHEMES
熊本地震-
地震学び、手作り名刺を交換 上天草市の児童ら、南阿蘇村訪れ交流
熊本日日新聞 -
社会的弱者への配慮、平時から 障害、性的少数者、外国人…災害時に不平等感拡大 熊本市で「ぼうさいこくたい」
熊本日日新聞 -
震災被災の宇土櫓、骨組みだけに 熊本城保存活用委が視察、復旧状況を確認
熊本日日新聞 -
熊本県内2キャンパス、アピール強化と既存建物の見直しを 東海大新総長に就任した松前義昭氏に聞く
熊本日日新聞 -
地震で被災の本堂、修復完了 稚児行列で祝う 宇城市の光照寺
熊本日日新聞 -
熊本地震の横ずれ断層「恐ろしかった」 海外の高校生250人が益城町など見学
熊本日日新聞 -
熊本開催の「ぼうさいこくたい」閉幕 ワークショップ、シンポ…災害対策、教訓伝承学ぶ
熊本日日新聞 -
熊本市議会の自民会派4分裂、合流へのステップ!? 市役所建て替え巡り事態悪化 早期合流には「冷却期間必要」の声
熊本日日新聞 -
熊本など4弁護士会、災害時の法的課題共有 協定に基づき熊本市で会合
熊本日日新聞 -
ヴォルターズ新加入選手、熊本地震学ぶ 23日に益城町で愛媛戦「復興の力に」
熊本日日新聞
STORY
連載・企画-
移動の足を考える
熊本都市圏の住民の間には、慢性化している交通渋滞への不満が強くあります。台湾積体電路製造(TSMC)の菊陽町進出などでこの状況に拍車が掛かるとみられる中、「渋滞都市」から抜け出す取り組みが急務。その切り札とみられるのが公共交通機関の活性化です。連載企画「移動の足を考える」では、それぞれの交通機関の現状を紹介し、あるべき姿を模索します。
-
学んで得する!お金の話「まね得」
お金に関する知識が生活防衛につながる時代。税金や年金、投資に新NISA、相続や保険などお金に関わる正しい知識を、しっかりした家計管理で安心して生活したい記者と一緒に、楽しく学んでいきましょう。
※次回は「損害保険」。11月14日(木)に更新予定です。