【あの時何が 熊本市民病院編④】新生児の搬送先探し 一刻も早く

昨年4月16日の本震で被災し、入院患者全員が避難した熊本市民病院(同市東区)。南館3階の産科病棟に入院していた渡邊晴香(32)=芦北町=は4日前、三つ子の男児を出産したばかりだった。
病棟は壁が崩落し、粉じんが激しく舞っていた。配られたマスクで鼻と口を覆い、点滴中の患者と助け合いながら、ようやく1階に避難した。心配なのは子どもの安否だ。低体重だった3人はNICU(新生児集中治療室)にいた。「うちの子もNICUです」「きっと大丈夫」。母親同士で励まし合った。無事でいて-。願いはそれだけだった。
北館3階のNICUとGCU(新生児治療回復室)には、38人の赤ちゃんが入院していた。人工呼吸器装着が7人、鼻につける呼吸補助器6人、酸素投与2人。体重が800グラム台や、心臓手術を受けた子もいる。看護師長の森美乃(55)が駆けつけたとき、1階のリハビリ室に向け、赤ちゃんの避難が始まっていた。看護師が手動の酸素バッグを一刻も休まず動かしている。
小さく生まれた赤ちゃんは体温調節がうまくできない。保育器外では急激に体温が下がり命に関わる。看護師はバスタオルでくるみ、さらに自分の服を着せ、抱っこして温め、余震の度に覆いかぶさった。「病院が建て替えられていれば移動しなくてよかったのにね。ごめんね」。森は心の中で謝り続けた。赤ちゃんたちはすやすやと眠っていた。
市民病院はNICU18床、GCU24床がある総合周産期母子医療センターだ。県内の新生児医療の中核として年間約300人を受け入れている。千グラムに満たない超低出生体重児の7割、心臓に病気がある新生児はほぼ全てが運ばれてくる。患者を引き受ける立場だった病院が、搬送先を探さなければならない事態になった。一刻も早く-。
午前3時11分。副院長の近藤裕一(65)は、大阪大病院小児科講師、和田和子(54)に「県外の搬送先を探したい」と伝えた。NICUの医師らでつくる新生児医療連絡会の事務局長を務める和田は、聖隷浜松病院(浜松市)の新生児科部長、大木茂(56)へ連絡。大木らはNICUの医師の連絡網を作っていた。
九州の地図を思い浮かべながら、和田は久留米大病院(福岡県久留米市)の准教授、岩田欧介(48)に協力を依頼。岩田はNICUがある病院の状況を調べ始めた。
大木は、鹿児島市立病院と国立病院機構佐賀病院(佐賀市)のNICUに電話をかけ、当直の医師に「熊本市民病院が大変なことになっています。できることをしてもらえませんか」と訴えた。「熊本へ向かいます」。両病院の医師は即答した。(森本修代)=文中敬称略、肩書は当時
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