高タンパクの昆虫を商品化 熊本大出身の古賀さん、販売会社設立 母校と共同研究、安定供給目指す

熊本日日新聞 2024年8月8日 06:05
スーパーワームの共同研究に乗りだした古賀勇太朗さん(左)と熊本大生物環境農学国際研究センターの澤進一郎センター長=7月23日、熊本市中央区
スーパーワームの共同研究に乗りだした古賀勇太朗さん(左)と熊本大生物環境農学国際研究センターの澤進一郎センター長=7月23日、熊本市中央区

 昆虫で世界を救いたい-。熊本大出身の古賀勇太朗さん(28)=宮崎県西都市=が、畜産飼料としての活用を目指し、高タンパクの昆虫「スーパーワーム」を販売する会社を立ち上げた。独自技術で効率的に生産する方法を熊本大と共同で研究し、栄養素を高めるなど品質の向上も目指す。世界的な食料不足や飼料高騰の解消につなげ、「スーパーヒーローになる」と意欲を燃やす。

 スーパーワームはゴミムシダマシ科の幼虫で、欧州などでは昆虫食として知られている。インターネット上では、十数グラムで千円超と高額だ。同類種の「ミルワーム」よりも成育が格段に速いのが特徴で、商品化できる大きさになるまで6週間で育ち、4カ月かかるミルワームに比べて大幅に短いという。

 密集した環境ではさなぎになりづらく、大量生産が難しかった。古賀さんは熊本大理学部の生物学研究で培った知識を生かして小型の成育装置を開発し、個体を離して育てることで、さなぎにさせやすくした。特許出願中の技術で従来の千倍の生産効率を実現し、事業化への道を開いた。

 現在は宮崎県西都市の工場で繁殖に取り組み、11月にも熊本、宮崎、鹿児島の3県の養豚業者向けに粉末状の商品の販売を始める予定。当初の生産量は年間200トン、1億円の売り上げを見込む。5年後は年間に10万トンの生産を目指す。

スーパーワーム(上)とミルワームの比較。スーパーワームは成長が速く、成育期間も短い(古賀さん提供)
スーパーワーム(上)とミルワームの比較。スーパーワームは成長が速く、成育期間も短い(古賀さん提供)

 世界では人口増加と新興国の経済成長で、2030年には食用のタンパク質が不足するとみられている。飼料に使用されるトウモロコシや大豆の耕作地は、世界的に飽和状態となっている。古賀さんは生産効率の高いスーパーワームが飼料不足の解消に役立ち、食肉の安定供給を支える〝救世主〟になるとみる。

 古賀さんは熊本大を卒業後、東京やタイでIT関連会社を起業したが、事業は空振り続き。25歳で古里の宮崎に戻った時に皮膚がんが見つかった。症状は重くはなかったものの、人の命には限りがあることを実感した。「世界の人たちの役に立つことがしたい」との思いが芽生えた。

 がん治療が一段落した後、訪れた東南アジアや中南米で食料難に苦しむ人たちに出会い、畜産業が盛んな宮崎から食肉の安定供給を支える仕事を始めることを決意した。23年に「スーパーワーム」の社名で起業し、投資会社などから運営資金1億円を調達した。

 スーパーワームの品種改良を目的に、24年7月には熊本大と共同研究契約を結んだ。学生時代に師事した熊本大生物環境農学国際研究センターの澤進一郎センター長(53)が中心となり、効率よく遺伝子を改編するゲノム編集技術を使って生産効率の向上や栄養素の増加を目指す。スーパーワーム社が研究費を負担し、人員も派遣する。

 澤センター長は「古賀君の挑戦は将来性があり、大学の社会貢献にもつながる。世界を救うという夢を後押ししたい」とエールを送る。古賀さんは「商品化したスーパーワームの安定供給を実現し、誰も成し遂げたことのないビジネスモデルを確立させたい」と力を込めた。(後藤幸樹)

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