【あの時何が 熊本市上下水道局編⑤】 97都市が応援、給水割り振りも担う
「避難所になった小学校に給水車を入れてほしい」-。熊本地震で水道を断たれた熊本市。水を求める市民の声は絶えず、そのニーズは生活用水の確保だけではなかった。「医療機関からの要請も多く、給水車2台は病院に充てる。あとは応援を待つしかない」。市上下水道局給排水設備課長(当時)の上村博之(54)は、配水池や病院の位置を記した地図に目を凝らした。
常備していた応急給水の機材は、水を運搬できる給水車5台と、据え置き型の給水タンク17台。九州の政令指定都市で比べると給水車は福岡4台、北九州2台より多く、タンクは福岡40台、北九州53台より少ない。市地域防災計画の最大被害想定は市域のおよそ半分での断水にとどまり、約32万世帯の「全戸断水」はまさに想定外だった。
職員の配置計画も「給水が3日、1週間と続くとは想定していなかった」と上村。復旧工事や電話応対の業務も膨らみ、「仮に自前の機材が十分あっても人が足りず、他都市の応援が必要だった」と振り返る。
既に熊本入りした鹿児島市などに続き、本震翌日の昨年4月17日朝までに長崎県諫早市、福岡県大野城市などから給水車や職員が到着。その日の活動は深夜に及んだ。帰庁する職員を待ち、上村が現場の状況を改めて把握できたのは午後11時ごろ。司令塔として翌日に備えなければならなかった。しかし…。
18日午前10時、熊本市中央区の局庁舎で上村らは凍り付いた。手配したはずの他都市の給水車が現場に到着していないとの連絡が入ったからだ。配置計画に盛り込んだにもかかわらず、手配を失念するミス。ただ、上村の極度の疲労は誰の目にも明らかで、責める者はいなかった。
「このままじゃ、つぶれますよ。もう限界だよ」。声を掛けたのは計画調整課長(当時)の岩本英紀(60)と、給排水設備課副課長(当時)の猪口浩二(57)だ。2人は「区ごとのリーダーを応援都市に任せ、各区内の給水態勢の割り振りも決めてもらおう」と提案。そうすれば、上村は新たな応援の受け入れと給水拠点の検討に集中できる。これが転機となった。
岩本らのアイデアは即日、現場に反映された。指定都市市長会の支援方針を受けて派遣された名古屋市が東区、神戸市が北区を受け持ち、姉妹都市の福井市は中央区を担当。給水が続いた5月6日までに、応援は97都市延べ4286人に達し、最大33カ所での給水を支えてくれた。
「被災時、地元自治体は全てを担うのではなく、大枠のマネジメントに徹することが重要だと痛感した」上村は振り返る。「そして、何とか給水をやり遂げられたのは市民のおかげ。パニックを起こさず、水を待ってくれた市民にこそ助けられた」(高橋俊啓)=文中敬称略
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