【あの時何が 熊本市上下水道局編④】 「水はいつ出る?」 白川公園に長蛇の列
昨年4月14日夜に起こった熊本地震は、16日未明の本震でさらに被災地を窮地に追い込んだ。熊本市上下水道局は前震の後、市東部の断水を想定して給水車や給水タンクの拠点を20カ所設置。しかし、被害は本震で市全域に拡大し「全戸断水」になった。荒尾市や山鹿市、鹿児島市などから応援を得て応急給水の拠点を広げたが、16日は計24カ所でしのぐしかなかった。
「白川公園が大変です」。同日午前、水道局に無線を入れる給排水設備課主査、山下豊(48)の声は上ずっていた。見る限り千人もの市民が水を求め、長蛇の列をつくっていたからだ。
山下が担っていたのは、応急給水の遊軍的な役割だ。当時、飲用水を唯一確保できた東区の健軍水源地で水をくみ、各拠点に配置した給水車やタンクに補給。先を急いで走り回ったが、水源地は他の遊軍車両でごった返し、道路は激しい交通渋滞が発生。健軍から5キロほどしか離れていない中央区の白川公園まで、2時間以上もかかった。
「孫たちを心配させたくない」。中央区の主婦、藤本多美[たみ](68)は午後2時ごろ、家族の飲み水を得ようと白川公園を単身訪れた。夫と息子夫婦、孫2人の6人家族。自宅の浴槽に水をためていたが、飲用水の備蓄はわずかしかなかった。配布された専用ポリ袋で水を受け取ったのは午後4時ごろ。行列の長さに圧倒され、「このまま断水が続けば2、3日先どうなるんだろうか」と不安は募るばかりだった。
市役所、北部総合出張所、下益城城南中、長嶺小、花園小…。各地の給水拠点の中でも、特に多くの市民が集まったのが白川公園だった。周囲にはマンションが多い。高層建物は停電すると、水をくみ上げる手だてがなく、上階では断水が必至。行列を余儀なくされた市民に、水道局の職員は頭を下げるしかなかった。
そんな同僚たちを手伝い、ポリ袋に水を詰めた山下。市民の「水はいつ出るの?」との問い掛けに、答えるすべもなかった。午後9時を過ぎても行列は100人を下らず、街灯の明かりを頼りにひたすら水を渡し続けた。
水源地や水道管の復旧工事を急ぐと同時に、断水地区での給水態勢を立て直す必要があるのは明らかだった。17日朝、東区の上下水道局でも庁舎を取り巻く行列ができた。司令塔を担った給排水設備課長(当時)の上村博之(54)は、その光景を見ながら「この状態がいつまで続くのか」とぼうぜん。ただ、全国の政令指定都市でつくる指定都市市長会や東京都などが同日、新たな応援態勢を決定。姉妹都市の応援職員や車両も続々、熊本へ向かっていた。
=文中敬称略(高橋俊啓)
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