【あの時何が 熊本市上下水道局編③】 「一晩で復旧を」異例の応急修理

「基幹管路」と呼ばれる主要な水道管のうち、震度6強程度の地震に耐える耐震適合率は2016年3月末現在、全国平均で37・2%にとどまる。南海トラフ地震や首都直下地震を想定し、厚生労働省は「22年度末までに50%以上」との目標を掲げるが、熊本市は74・3%。市上下水道局は「阪神大震災をきっかけに、少しずつ耐震化を進めてきた結果」と説明する。
耐震管の中で、主に橋などで使われるのが鉄鋼製の鋼管だ。熊本市の基幹管路約300キロのうち、鋼管は約1割。ところが昨年の熊本地震では橋が激しく揺さぶられ、管の接合部などが破損。市最大の取水能力を持つ東区の健軍水源地での漏水も、鋼管の損傷が原因だった。復旧に欠かせない特殊な溶接技術を持つ業者は、市内に1社しかなかった。
「健軍水源地を一晩で直してほしい」。水道局から依頼された南区御幸笛田の株式会社「イワキ」の2代目社長、飯田修治(50)は「使命感しかなかった」と振り返る。鉄の街・北九州市で技術を培った先代が1974年、熊本市に管工事会社を設立。前震後は社員12人が2人一組で各所を回り、復旧に当たっていた。
イワキが健軍に入ったのは本震後の4月16日午前8時ごろ。直径800ミリの管に長さ100ミリの亀裂が入り、1000ミリの管は「フランジ継手」と呼ばれる円盤状の接合部が壊れていた。部品調達も含め、修理に3日はかかる状態だった。
夕刻、管工事歴40年の最古参、副島裕次郎(61)と工事主任の吉田豊(33)が別の現場から駆け付けた。「一晩で」の求めに応えるには「時間のかかる仕事をできるだけ省くしかない」。接合部は通常、付け替え部品を寸分違わぬサイズに加工・調整して溶接するが、二人は少し大きめの部品をそのまま使って溶接するという異例の方法を採用した。
管内に水が残るなど条件は厳しかったが、副島は「応急修理でも10年は絶対漏らさない技術と自信があった」。最終的に3チームを投入して、17日午前1時に復旧完了。「水道局の心臓」は息を吹き返した。
各所の復旧工事を担ったのは、イワキをはじめとする民間事業者だ。98社加盟の市管工事組合は2007年、市と災害協定を締結。非常時に備え、29社で編成する緊急工事協力会を設けていた。ただ、鋼管に限っては工事依頼がイワキに集中。社員は現場を掛け持ちし、不眠不休の作業に当たった。
「意外とアイデアが出た。厳しい現場は乗り越えるたびに達成感があった」と副島。技術者の本能だろうか、疲れを感じることもなく集中力を発揮できたと振り返る。前震後の約2週間でイワキが手掛けた復旧工事は25件。うち14件は着工当日に修理を終える素早さだった。=文中敬称略(高橋俊啓)
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