TSMCって何がスゴいの? そもそもなぜ熊本に進出?? 経済記者がイチから解説 「もっとよく分かる」TSMC①
■あのアップルCEOが熊本に
2022年12月13日、米アップル社のティム・クック最高経営責任者(CEO)が菊陽町を訪れました。行き先は、ソニーグループの半導体製造子会社が運営する工場です。ソニーはiPhone(アイフォーン)に搭載するカメラ向けの画像センサーを供給しており、菊陽町の工場は主要生産拠点です。
この工場に隣接する第二原水工業団地(敷地面積21・3ヘクタール)で、TSMCの子会社JASM(熊本市)が半導体工場の建設を進めています。JASMにはソニーと自動車部品大手のデンソーも出資。ソニーは画像センサー向けに演算用のロジック半導体の供給を受ける計画です。
ソニーはTSMCにとって日本で最大の顧客です。JASMのために第二原水工業団地を造成したのもソニーです。台湾メディアは、クック氏の来熊後、TSMC幹部が日本に工場を建設する理由について「TSMCの最大顧客の最大サプライヤーが日本企業だからだ」と述べたと報じました。TSMCの最大の顧客はアップル。3社の関係性が熊本進出の決め手の一つになったと言えそうです。
■「産業のコメ」 世界で引っ張りだこ
熊本をはじめ「シリコンアイランド」と呼ばれる九州には、半導体関連企業が集積していることも背景にあります。半導体そのものでは台湾などに後れを取った日本ですが、製造装置や材料では今も強みを持ちます。製造装置大手の東京エレクトロンの工場はTSMCの新工場の近接地にあります。TSMCの広報責任者も「関連産業へのアクセスの良さ」を進出の理由に挙げています。
巨額の補助金の存在も見逃せません。TSMCが菊陽町の工場で生産する半導体は回路線幅が10~20ナノメートル(ナノは10億分の1)台です。半導体は回路線幅が微細になるほど性能が上がります。既存の日本の工場で生産できるのは40ナノメートル台までで、新工場は国内最先端となります。一方、TSMCは世界で初めて3ナノメートルの量産化に成功しました。
デジタル化の進展で、あらゆる製品に使われ「産業のコメ」と呼ばれる半導体の戦略物資としての重要性は高まる一方です。日本政府は、先端半導体の製造基盤を国内に持つことが経済安全保障上も不可欠としてTSMCの誘致に動きました。新工場の投資額約1兆円の半額程度を補助することを決めています。
TSMCを誘致するのは日本だけではありません。TSMCは米国のアリゾナ州に建設中の工場でも24年に4ナノメートルの生産を始める計画ですが、これも決め手となったのは米政府による財政支援です。欧州でも、ドイツでの工場建設を検討中と報じられています。
それでは、なぜTSMCはこれほど各国から引っ張りだこなのでしょうか。
■超大型の設備投資、世界で存在感
2022年12月29日、TSMCは台湾・台南の新工場で、世界最先端の回路線幅3ナノメートル(ナノは10億分の1)の半導体の量産開始を祝うセレモニーを開きました。あいさつした劉徳音(マーク・リュウ)会長は「台湾に大きく投資して技術のリーダーシップを維持していく」と強調。日米に工場を建設することによる「『脱台湾』のうわさを粉砕」(台湾メディア)しました。
1987年設立のTSMCは、他社が設計した半導体の製造に特化する「ファウンドリー(受託製造)」ビジネスモデルの先駆者です。台湾政府の半導体技術プロジェクトを母体とし、米大手のテキサス・インスツルメンツで上級副社長まで務めた張忠謀(モリス・チャン)氏が創業しました。
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