【あの時何が 熊本市動植物園編⑧】移動動物園 子どもの心癒やす

「1年くらいで再開できる状況ではない」。熊本市長大西一史(49)が市動植物園の復旧に関し、厳しい見通しを示したのは大型連休中の5月4日だった。本来なら大勢の家族連れでにぎわう時期。休園が続く園内は異様な静けさに包まれていた。
3月に来園したウンピョウ2頭は連休中に一般公開する予定だった。「ウン」の名前通り、雲の模様が美しく、長い尻尾が特徴。担当飼育員伊藤礼一(51)は、コンクリートの運動場に土を敷いて植栽も施し、誰より公開を楽しみにしていた。しかし熊本地震の後、2頭は福岡市動物園へ避難したまま。「猫好きにはたまらない。きっと人気ものになったのに」と残念がった。
獣医師の松本充史(44)は連休中、熊本市西区の春日小で避難所運営に奔走していた。最大900人が身を寄せたが当時は40人ほど。学校再開に向け、避難者に移転の意向を聞く業務に当たっていた。
「傷ついた子どもたちの心を癒やすため、動物たちを見せてやることはできないだろうか」。校長の松並孝志(56)の投げ掛けに、松本はハッとした。「大変な時期に動物園の話なんてできない」と思っていたが、「子どもの心の教育」という動物園の大切な役割を気付かされた。
松本は「休園中でも動物たちは元気。私たちも子どもたちの笑顔が見たい」と即答。園長の岡崎伸一(57)に移動動物園の企画を打ち明けると快諾された。
5月26日、春日小で「ふれあい移動動物園」が試みられた。重さ23キロのムツアシガメやモルモットなど4種21匹を連れていくと、全児童約240人に笑顔が広がった。「動物を触って癒やされた」「温かい気持ちになった」。そんな子どもの声を励みに、市内の小学校や幼保育園での移動動物園は既に30回を超えた。
師走を迎えた園内は、ほとんどが被災当時のまま。復旧工事の本格化は年明けからの見通しだ。
概算の被害額は約9億円。給排水設備が壊滅状態で、複数の動物舎で壁の亀裂や鉄骨の変形が発生。開放型施設モンキーアイランドも地盤沈下で使えない。遊具もバイキングが全壊するなどの被害を受けている。
地震から8カ月余り。大西は12月20日、定例の市長会見で部分開園の日程を発表した。来年2月25日から被害が少なかったゾウ、キリン舎や動物ふれあい広場など園の南側を土日祝日のみ、無料で開園。動物約120種類のうち、27種が見られるようになる。次に待ち望まれるのは全面再開。大西は「2017年度のできるだけ早い段階を目指したい」と述べた。(岩下勉)=文中敬称略
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