【あの時何が 益城町役場編②】庁舎被災、災害対策本部を移転

2016年4月14日午後9時26分。益城町議会議員の宮崎金次(71)は翌日の会合に備え、同町安永の自宅で資料に目を通していた。突然「ドン」と突き上げられ、椅子ごと倒れそうになった。外に出ると、近くで火の手が上がるのが見えた。
宮崎は元陸上自衛官。西部方面総監部(熊本市)などで十数年、災害派遣に携わった経験を買われ、町の防災アドバイザーを委嘱されている。「まずい、かなり大きい」。慌てて防災服に着替え、自転車で役場へ向かった。
つぶれた家屋、倒れた電柱、亀裂が入った道路…。目を疑うような惨状が続く。思い出したのは前年3月の町議会での一般質問。布田川・日奈久断層を震源とする地震が起きた際の対応を執行部にただした。「なぜ防災体制の充実をもっと訴えておかなかったのか…」。後悔の念にさいなまれながらペダルをこいだ。
同じ頃、町長の西村博則(61)は暗闇の中を全力疾走していた。
同町平田の自宅から車で役場に向かったものの、倒壊した建物や電柱に行く手を阻まれた。役場までの距離はまだ500メートル以上はある。「一刻も早く役場に」。焦る気持ちを抑え、目に入ったコンビニの駐車場に車を止め、一気に駆けだした。
午後10時すぎ、役場に着いた西村は真っ暗な庁舎を見てがくぜんとした。屋上にあった非常用電源がやられているのが分かった。固定電話など通信回線も途絶している。町の防災行政無線も使えない。駆けつけた職員と長机やいす、ホワイトボードを駐車場に運び出し、応急の災害対策本部を立ち上げた。ただ、連絡手段は職員の私用携帯電話しかなく、思うように指示が出せずにいた。
「はぴねすが使えます。電気も通信も大丈夫です」
間もなく朗報が届く。「はぴねす」とは町保健福祉センターの愛称。西村は約2キロ離れたはぴねすに災害対策本部を移すことを決め、防災担当職員らと急いだ。総務課長の森田茂(61)が現地対策本部の責任者として役場駐車場に残った。
役場駐車場にはすでに数百人の住民が集まっていた。「地震です、地震です。強い揺れに警戒してください」。余震が襲うたび、緊急地震速報を伝える携帯電話の警報音が鳴り響く。あちこちから悲鳴が上がり、緊張が走った。
自転車で回り道を重ね、ようやく役場にたどり着いた宮崎は、迷彩服姿の自衛官を見つけた。熊本市に拠点を置く陸自第42普通科連隊の副連隊長の武藤伸治(51)だった。武藤は同市東区の自宅から自転車で駆けつけていた。宮崎は武藤にこう告げる。「人命救助と避難者の安全確保、水と食糧をお願いすることになると思う」。程なく自衛隊車両が続々と集まり、消防や警察との救助活動が本格的に動きだした。(益城町取材班)=文中敬称略、肩書は当時
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