【あの時何が 熊本市民病院編①】受水槽破損、医療機関の機能喪失
![本震で破損した受水槽。安全な水がなくなり、病院に致命的な打撃となった=2016年4月17日(熊本市民病院提供)](/sites/default/files/styles/crop_default/public/2021-03/1a.jpg?itok=HnOzeVSn)
![上空から見た熊本市民病院。手前から新館、南館、北館。左の道路は国道57号(東バイパス)=2016年12月、熊本市東区(池田祐介)](/sites/default/files/styles/crop_default/public/2021-03/2.jpg?itok=LtZAvVtK)
![【あの時何が 熊本市民病院編①】受水槽破損、医療機関の機能喪失](/sites/default/files/styles/crop_default/public/2021-03/3.jpg?itok=s-2mxehD)
「熊本で震度7」-。
2016年4月14日夜。熊本市民病院(同市東区)の院長、高田明(62)は、衝撃的なテレビのニュースに目を見張った。日本脳卒中学会に参加するため、高田は札幌市に滞在していた。
病院に電話をかけても、つながらない。医師や職員の携帯電話に何度かけても、呼び出し音が鳴るばかりだった。不安が募った。
不安の原因は病院の耐震性が弱かったことだった。02年に実施した耐震診断で、南館(1979年完成)は耐震基準を満たさず、北館(84年完成)も耐震強度が十分ではない-と指摘されていた。
病院はどうなっているのか。電話にようやく応じたのは総務課長の田代和久(54)だった。「病院は大丈夫です。患者を受け入れています」という言葉に安堵[あんど]した。
この日の前震で病院は、新館(01年完成)の天井の一部が崩落し、南館と北館の壁には亀裂が入ったものの、何とか持ちこたえた。電気やガス、水道のライフラインも無事だった。新館1階に対策本部を設置。正面玄関と時間外出入り口付近に、治療の優先順位をつけるトリアージセンターを置いた。
この夜、地震でけがをした人が次々にやって来た。救急診療部長の赤坂威史(47)は「殺到する患者の対応にひたすら追われた」。頭をけがした人、骨折した人、トラクターの下敷きになった人もいた。心不全や肺炎など、外傷以外の救急患者も運ばれてきた。
エレベーターが作動しなくなったため、職員がシーツを担架代わりにして、患者を階段で病棟に上げた。
病院が前震から本震までの28時間で受け入れた患者は317人。62台の救急車を受け、5件の緊急手術も実施。16人の重症患者を含む30人が入院した。2次救急医療を担う総合病院としての役割を果たしていた。さらに15日夜には、被災した東熊本病院(益城町)から患者12人を受け入れようとしていた。
院長の高田は、学会をキャンセルして飛行機を乗り継ぎ、熊本に帰った。16日未明、新館6階の院長室で仮眠中だった高田は、激しい揺れで跳び起きた。本棚は倒れ、机の上のパソコンが落下。「ドーン」「ガシャーン」。大きな音が響いた。午前1時25分、本震の発生だった。
北館と南館の情報を早く集めるため、1時40分には対策本部を両館の間の出入り口付近に移動した。
「天井から水が落ちてきます」「非常口が開きません」「ガラスが散乱し、壁に亀裂が入っています」…。深刻な情報が次々入ってくる。
電気、ガス、水道のライフラインもすべてストップ。電気は自家発電に切り替え約1時間で復旧したが、受水槽の屋根が破損した。外気に触れ、雨も降り込んでしまう。医療に欠かせない“安全な水”がなくなったのは致命的だった。
熊本市民病院は、医療機関としての機能を失った。(森本修代)=文中敬称略、肩書は当時
◇
熊本地震で大きな被害を受けた熊本市民病院には当時、310人の入院患者がいた。避難から搬送へ-。患者を受け入れた県内外の医療機関の状況も交え、「あの時」を追う。
RECOMMEND
あなたにおすすめPICK UP
注目コンテンツTHEMES
熊本地震-
熊本地震で被災の馬具櫓と石門周辺、石垣復旧案を承認 熊本城修復検討委
熊本日日新聞 -
大津町の国重文「江藤家住宅」、被災からの復旧工事が終了 落成式に町民ら100人出席
熊本日日新聞 -
消防団詰め所、全て復旧 南阿蘇村乙ケ瀬区の建て替え工事完了
熊本日日新聞 -
被災した古墳の復旧課題知って 熊本県教委など山鹿市で市民講座 来年3月まで前10回
熊本日日新聞 -
熊本城の復興願う音色響く 熊本県内7高の吹奏楽部員ら、熊本市の新市街でチャリティーコンサート
熊本日日新聞 -
国重文の熊本城・平櫓、石垣復旧工事始まる 高さ19メートル、加藤時代に築造
熊本日日新聞 -
熊本競輪場再建、新400メートルバンクや防災機能も 地域住民ら招き内覧会
熊本日日新聞 -
日本大腸肛門病学会 県に500万円寄付金 災害からの復旧復興に活用を
熊本日日新聞 -
能登の復興遅れ…被災者ら疲労濃く 地震から5カ月、信濃毎日に出向中の熊日記者ルポ
熊本日日新聞 -
住民70人、たすきつなぐ 西原村で12時間リレーマラソン
熊本日日新聞
STORY
連載・企画-
移動の足を考える
「すべての道は熊本に通じる」とは、蒲島郁夫前知事が熊本県内の道路整備に向けた意気込みを語る際に使ってきたフレーズ。地域高規格道路などの骨格的な道路や鉄道網は、地域・産業の活性化はもちろん大規模災害時の重要性も注目されています。連載企画「移動の足を考える」では、熊本県内の〝足〟の現在の姿を紹介し、未来の形を考えます。
-
学んで得する!お金の話「まね得」
お金に関する知識が生活防衛につながる時代。税金や年金、投資に新NISA、相続や保険などお金に関わる正しい知識を、ファイナンシャルプランナー(FP)の資格取得を目指す記者と一緒に楽しく学んでいきましょう。
※次回は「相続・贈与は難しい」前編。7月12日(金)に更新予定です。