【あの時何が 熊本市民病院編①】受水槽破損、医療機関の機能喪失
「熊本で震度7」-。
2016年4月14日夜。熊本市民病院(同市東区)の院長、高田明(62)は、衝撃的なテレビのニュースに目を見張った。日本脳卒中学会に参加するため、高田は札幌市に滞在していた。
病院に電話をかけても、つながらない。医師や職員の携帯電話に何度かけても、呼び出し音が鳴るばかりだった。不安が募った。
不安の原因は病院の耐震性が弱かったことだった。02年に実施した耐震診断で、南館(1979年完成)は耐震基準を満たさず、北館(84年完成)も耐震強度が十分ではない-と指摘されていた。
病院はどうなっているのか。電話にようやく応じたのは総務課長の田代和久(54)だった。「病院は大丈夫です。患者を受け入れています」という言葉に安堵[あんど]した。
この日の前震で病院は、新館(01年完成)の天井の一部が崩落し、南館と北館の壁には亀裂が入ったものの、何とか持ちこたえた。電気やガス、水道のライフラインも無事だった。新館1階に対策本部を設置。正面玄関と時間外出入り口付近に、治療の優先順位をつけるトリアージセンターを置いた。
この夜、地震でけがをした人が次々にやって来た。救急診療部長の赤坂威史(47)は「殺到する患者の対応にひたすら追われた」。頭をけがした人、骨折した人、トラクターの下敷きになった人もいた。心不全や肺炎など、外傷以外の救急患者も運ばれてきた。
エレベーターが作動しなくなったため、職員がシーツを担架代わりにして、患者を階段で病棟に上げた。
病院が前震から本震までの28時間で受け入れた患者は317人。62台の救急車を受け、5件の緊急手術も実施。16人の重症患者を含む30人が入院した。2次救急医療を担う総合病院としての役割を果たしていた。さらに15日夜には、被災した東熊本病院(益城町)から患者12人を受け入れようとしていた。
院長の高田は、学会をキャンセルして飛行機を乗り継ぎ、熊本に帰った。16日未明、新館6階の院長室で仮眠中だった高田は、激しい揺れで跳び起きた。本棚は倒れ、机の上のパソコンが落下。「ドーン」「ガシャーン」。大きな音が響いた。午前1時25分、本震の発生だった。
北館と南館の情報を早く集めるため、1時40分には対策本部を両館の間の出入り口付近に移動した。
「天井から水が落ちてきます」「非常口が開きません」「ガラスが散乱し、壁に亀裂が入っています」…。深刻な情報が次々入ってくる。
電気、ガス、水道のライフラインもすべてストップ。電気は自家発電に切り替え約1時間で復旧したが、受水槽の屋根が破損した。外気に触れ、雨も降り込んでしまう。医療に欠かせない“安全な水”がなくなったのは致命的だった。
熊本市民病院は、医療機関としての機能を失った。(森本修代)=文中敬称略、肩書は当時
◇
熊本地震で大きな被害を受けた熊本市民病院には当時、310人の入院患者がいた。避難から搬送へ-。患者を受け入れた県内外の医療機関の状況も交え、「あの時」を追う。
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