新入社員が「ビッグブラザー」と歩んだ半年―ユナイテッドトヨタ熊本(熊本市)が誇る営業&整備士の育成制度【新卒採用・熊本企業インサイト】

熊本日日新聞 2024年10月15日 11:23
新入社員が「ビッグブラザー」と歩んだ半年―ユナイテッドトヨタ熊本(熊本市)が誇る営業&整備士の育成制度【新卒採用・熊本企業インサイト】

豊富な経験を持つ先輩社員が後輩を個別に指導する「メンター制度」は近年、熊本県内でも定着してきた。県内でトヨタ系の自動車ディーラー26店を展開するユナイテッドトヨタ熊本株式会社(熊本市中央区十禅寺)では10年以上前から、新入社員に最も年齢が近い2〜3年目社員が「兄・姉」となって「弟・妹」の教育に当たる「ビッグブラザー制度(bB制度)」を導入している。実際、制度を知って入社を決めたという社員は多い。先輩にとっても、後輩を指導することが自身の成長につながるという。

新入社員とビッグブラザーはどんな毎日を送り、ともに成長していくのか。今年4月に入社した営業と整備士の2人とそのビッグブラザーに、半年間の奮闘を振り返ってもらった。

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目次

bBの教えで初成約。「コンサルティング」のやりがいを知る

2024年入社の脇坂和也さん(右)と、1年先輩のビッグブラザー、音羽和明さん。生活スタイルに合った車を提案するコンサルティングスタッフだ。
2024年入社の脇坂和也さん(右)と、1年先輩のビッグブラザー、音羽和明さん。生活スタイルに合った車を提案するコンサルティングスタッフだ。

ユナイテッドトヨタ熊本の営業職は「コンサルティングスタッフ」と呼ばれる。単に車を売るのではない。一人一人の生活スタイルに合った車を一緒に選ぶお手伝いをし、将来にわたる快適なカーライフを提案する。そんな使命感が込められている。

今年4月に入社したネッツスクエア本店(熊本市南区近見)の脇坂和也(23)さんのビッグブラザーは、同じ店舗の入社2年目、音羽和明(23)さんだ。脇坂さんは6月に配属されてから約1か月間、音羽さんの接客に同席し、2人で「コンサルティング」のロールプレイングを毎日繰り返した。

7月になると、新規来店客の応対を1人で任されるようになる。2人の努力は、8月に早速実を結んだ。

音羽さん(左)から車種の特徴を教わる脇坂さん。接客のノウハウを吸収し、コンサルティングスタッフとして成長している。
音羽さん(左)から車種の特徴を教わる脇坂さん。接客のノウハウを吸収し、コンサルティングスタッフとして成長している。

「担当が脇坂くんで良かった、これからもよろしくね」

他メーカーの車と迷っていた50代の女性が、3回の来店の末にトヨタ車を購入してくれたのだ。脇坂さんにとって、初めて成立した商談だった。

女性の心をつかんだ鍵は、丁寧なヒアリングにあった。通勤、レジャーなどどんな場面で乗りたいのか。他メーカー車のどんなところが気に入っているのか。会話を通じて女性の生活に思いを巡らせ、トヨタ車にどんなメリットがあるかを伝える。迷っている際に聞き出すべきポイントや魅力の伝え方は、すべて音羽さんとの練習で身に付けた。

「社会人になったばかりで心細い中、音羽さんのアドバイスが本当に心強かった。お客様からの感謝という、コンサルティングの一番のやりがいを知ることができました」

新入社員とビッグブラザーは毎日のように顔を合わせ、成長度合いや業務中に感じた疑問を話し合う。教え、学び合う関係がお互いの成長につながっている。
新入社員とビッグブラザーは毎日のように顔を合わせ、成長度合いや業務中に感じた疑問を話し合う。教え、学び合う関係がお互いの成長につながっている。

脇坂さんは東海大学熊本キャンパスの経営学部(現・文理融合学部)を卒業。就活中は不動産会社や自動車ディーラー3社を回った。「当社の会社説明会でビッグブラザー制度のことを知りました。実際に体験して、安心して成長できるとてもいい制度だと感じます」と胸を張る。

ビッグブラザーの音羽さんにとっても、自分のスキルを磨き直すきっかけになっている。脇坂さんから様々な相談をされることで、正しく答えるために調べたり、どう伝えれば分かりやすいか考えたりするからだ。

2023年に熊本学園大学経済学部を卒業した音羽さんは、学生時代から好きだったトヨタ車と、人に関わる仕事がしたくて自動車ディーラーを志望した。熊本県内最大の26店舗を展開するユナイテッドトヨタ熊本の「規模感」に惹かれて入社し、1年半がたつ。

昨年まで同じ立場だったからこそ、新人の気持ちに寄り添ったアドバイスも心掛けてきた。

「私も経験したことですが、配属されてすぐは何をして過ごしていいのか分からないものです。1人の時間にすることがない。そこで、名刺を持ってあいさつ回りをするように言いました」

ユナイテッドトヨタ熊本には、表彰制度や技能を競うコンテストが数多くある。脇坂さんは「新人賞」を目指し、音羽さんと技を磨いている。
ユナイテッドトヨタ熊本には、表彰制度や技能を競うコンテストが数多くある。脇坂さんは「新人賞」を目指し、音羽さんと技を磨いている。

アドバイスを受けた脇坂さんは大学時代のアルバイト先や、卒業した中学・高校・大学の先生を訪ね歩いた。その結果、バイト先の先輩と後輩から車を契約してもらったという。

脇坂さんの今の目標は、全店舗の新入社員を対象とした12月のロールプレイング大会で優勝することだ。同社を主とするユナイテッドトヨタグループには、年間を通して優秀な成績を上げたスタッフを全員で称える「UTG HEROES」をはじめ、多くの表彰制度がある。

「音羽さんとの猛練習の成果を出し切りたい。新人賞獲ってきます!」。半年間、ともに歩んできたビッグブラザーに、脇坂さんは強く誓った。

早まった実戦デビュー。テクニカルスタッフがbBとつかんだ成長

ネッツスクエア本店のテクニカルスタッフとして働く、2024年入社の中川舞叶さん(左)とビッグブラザーの坂本晃彬さん。
ネッツスクエア本店のテクニカルスタッフとして働く、2024年入社の中川舞叶さん(左)とビッグブラザーの坂本晃彬さん。

ネッツスクエア本店のサービス工場で働くテクニカルスタッフにも、「新人賞」を目指す若手がいる。今年4月に入社した中川舞叶さん(22)だ。昨年の新人賞に選ばれた、入社2年目の坂本晃彬さん(22)がビッグブラザーを務めている。

テクニカルスタッフは、車検やオイル交換、定期点検、エンジンやトランスミッションの交換といった整備を担う。車と向き合う作業だけではない。車のオーナーが快適なカーライフを送れるよう、プロの目で見たアドバイスを行う。

1年目の新人たちが目指す新人賞の審査項目は、車検の実技と車の基礎知識を測る筆記試験だ。物静かな中川さんだが、「実戦でこなしてきた車検作業の量は、同期の誰にも負けない」と意気込みは熱い。

中川さんがそう語る背景には、坂本さんと共に過ごした半年間の奮闘がある。

2人は自動車整備の専門学校を卒業したが、実際の点検や修理の技術は入社後に身に付けた。新入社員はビッグブラザーに付き、一つずつ仕事を覚えていく。
2人は自動車整備の専門学校を卒業したが、実際の点検や修理の技術は入社後に身に付けた。新入社員はビッグブラザーに付き、一つずつ仕事を覚えていく。

2人は久留米自動車工科大学校(福岡県)の同級生だが、中川さんが1年あとに入社した。坂本さんは2年制の二級自動車工学科、中川さんは3年制の車体整備工学科をそれぞれ卒業したからだ。

専門学校では車やエンジンの仕組みなどを学ぶものの、実際の点検や修理のノウハウは入社してから身に付けるのが一般的だという。中川さんが最初に学んだのは車検作業だ。複数人のチームで作業するが、主に坂本さんの横について作業を見ながら、業務を覚えた。

ひと月が過ぎた頃、中川さんのスキルを大きく向上させる「試練」が訪れる。チームの1人である整備士の先輩が翌月から育児休業を取ることになり、空いたポジションに中川さんが入ることになったのだ。坂本さんは、早い段階から中川さんにできる限りの作業を任せるようにした。

坂本さんのサポートを受け、入社後早い段階から実務を任せられた中川さん。「実戦でこなした作業量は同期の誰にも負けない」と話すのはそのためだ。
坂本さんのサポートを受け、入社後早い段階から実務を任せられた中川さん。「実戦でこなした作業量は同期の誰にも負けない」と話すのはそのためだ。

「最初のうちは作業スピードが遅くて焦った」と中川さん。「坂本さんの動きを見て、分からないことを聞くようにしていました。一日も早く独り立ちできるように、どうすれば効率良くできるか必死で考えていました」と振り返る。

坂本さんは「去年の僕だったら、覚えることの多さにオーバーフローしたかもしれない」と、その大変さを認める。自分の仕事を進めつつ、中川さんの様子をいつも気に掛けた。作業に手間取っていたら「こうすればもっと効率的にできる」と実践的なアドバイスを送る。中川さんが慌てないような作業の時間配分にも気を配った。

坂本さんの期待以上に中川さんの仕事の覚えは早かった。試練を乗り越え、テクニカルスタッフとして大きく成長したようだ。

坂本さんは自分のことのように胸を張る。「覚えないといけない作業はまだありますが、車検に関しては僕より量をこなしていますよ。他店の新人に比べてもかなり成長が早いと思います」

車のプロとして、2人の挑戦は続く。

「人財育成」「働く環境」「SNS」…新しいものを積極的に取り入れる柔軟な社風

ユナイテッドトヨタ熊本の人事部で採用を担当する緒方章浩さん。「ビッグブラザー制度以外にも、スキルアップのための様々な仕組みがある」と話す。
ユナイテッドトヨタ熊本の人事部で採用を担当する緒方章浩さん。「ビッグブラザー制度以外にも、スキルアップのための様々な仕組みがある」と話す。

ビッグブラザー制度は個々の先輩・後輩ペアで完結するわけではない。全店のビッグブラザーペアや店長らが一堂に会す月1回の「UTG-PICK」では、新人の毎月の活動を振り返り、そこで見出された課題について全員で解決方法を考える。

人事部で採用を担当する緒方章浩さんは「新人が1人で抱えこむことなく、皆で認め合い、成長し合うことが狙いです」と説明する。

「ビッグブラザー制度」以外にも、社内の様々な先輩からスキルを学ぶことができる仕組みがある。

その一つ「UTGハッチ」は、2カ月に1回、他店舗の先輩社員のもとへ学びに行くものだ。社内で評判の技能を持っていたり、自分が知りたいことに詳しかったりする先輩を「指名」できる。他店の雰囲気や、ビッグブラザーとは違う角度からのアドバイスを得られるという。

社長をはじめ社員が講師となって講座を開く「UTGカレッジ」も独自の制度だ。現在14講座があり、興味のある人が自ら進んで受講する。「リーダーシップ道場」と銘打ち、将来の幹部社員を育成するカリキュラムも用意している。

熊本市中央区十禅寺の本社では、一部の部署でフリーアドレス制を採用。TikTokで積極的に発信するなど、新しいものを積極的に取り入れる社風がある。
熊本市中央区十禅寺の本社では、一部の部署でフリーアドレス制を採用。TikTokで積極的に発信するなど、新しいものを積極的に取り入れる社風がある。

ユナイテッドトヨタ熊本が打ち出す施策の背景にあるのは、世の中の流れに敏感で、新しいものを積極的に取り入れる社風だ。TikTokの公式アカウント( @united.toyota.kumamoto )は全国のトヨタ系列全販売店トップのフォロワー数(6万5000人)を誇る。就職説明会に出た社員が、学生に「TikTokに出てますよね?」と声を掛けられるほどだ。

人事部の緒方章浩さんは「人財育成についても、新しくて良い仕組みを取り入れる姿勢は変わらない」と語る。最近では、育児休業者の仕事をカバーする同じ部署のメンバーに支給する手当を創設した。ユナイテッドトヨタ熊本で得られる成長の機会や働く環境は、これからも進化していく。

編集部ひとこと

「ビッグブラザー制度」で新人指導に当たる先輩はベテランではなく、「自分は何につまずき、悩んだか」を覚えている2、3年目の社員だ。取材した2人のビッグブラザーはどちらも、後輩の悩みに共感してアドバイスを送っていた。写真撮影になると笑いながら顔を見合わせ、仲良くポーズを取ってくれたことからも関係性がうかがえた。

他店の先輩など幅広い社員から学ぶ機会が「制度」として保証されているのも特徴的だ。新人をじっくり育てる手厚い教育体系を、同社は「3年間義務教育」と表現する。入社直後の退職率が低いというのもうなずける。人を大切にする風土があることは、就活生はもちろん、その家族も安心できるだろう。

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ユナイテッドトヨタ熊本株式会社 概要

所在地 〒860-0824 熊本市中央区十禅寺4丁目1-1
【電話】096(362)2111
設立 1962年1月(社名変更:2020年5月1日)
事業内容 自動車販売およびメンテナンス(カローラ熊本、ネッツスクエア、レクサス熊本南、GRガレージ熊本中央、VW熊本中央)
資本金 5,000万円
役員 代表取締役会長/梅﨑輝也
代表取締役社長/西治三朗
専務取締役/北田壮一
取締役/吉村仁志、梅﨑晃弘、益田耕一、村上伸幸
監査役/廣瀬修治
従業員 550人(グループ総員680人)
関連会社 UTモビリティサービス(株)、(株)ジェームス熊本(ダイハツJms熊本東店)、UT LIFE(株)、UTホールディングス(株)
ホームページ ユナイテッドトヨタ熊本https://www.united-toyotakumamoto.jp/
UTモビリティサービス https://ut-ms.com/

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