熊本市電、綱渡りの車両運用 老朽化で故障やメンテ…超低床電車「COCORO」事故も追い打ち
乗務員不足や想定外の車両故障のため、6月末に過去最大規模の減便を実施した熊本市電。車両のやりくりが厳しい中、今度は超低床電車「COCORO」が事故に巻き込まれた。COCOROは今春、事故に伴う修理から1年2カ月ぶりに復帰したばかり。現時点で復旧のめどは立っておらず、車両運用は綱渡りの状況が続いている。
市交通局によると、8月2日午前10時20分ごろ、中央区の八丁馬場─神水交差点間で、30代女性が運転する軽乗用車とCOCOROが接触した。現場は片側1車線の直線で、健軍町方面に向かっていた軽乗用車が右折しようとして、右後方から来た市電と接触。けが人はなかったが、COCOROは左前方から左側面にかけて大きく破損した。
2両編成のCOCOROは、工業デザイナーの水戸岡鋭治氏がデザイン。市電開業90周年の記念車両として2014年にデビューした。濃茶色のメタリックな外装や車両ごとに異なる内装が特徴だ。
ドイツ製で、見積もりや部品発注は鉄道車両専門の会社を介し、海外メーカーとやりとりする。発注は、修理の見積もり後、事故の相手の保険会社に確認を取ってから。過去には見積もりに1カ月超かかったこともあり、部品の在庫がなければ製造を待つ。配送にも時間がかかるため「復旧時期は全く読めない」(市交通局)という。
数十年以上、走り続ける高年式車両が多い市交通局では、車検、事故や故障に伴う修理に加え、長期メンテナンス中の車両もある。保有する1~2両の全45編成のうち、平日朝のラッシュ時には31編成を運行。緊急事に備えた予備の確保も必要で、車両数に余裕のない状態は続く。
6月末のダイヤ改正では、運行本数を1割強も減便した。COCOROの事故と運休を受け、担当者は「改正前のダイヤだったら、やりくりできなかったかもしれない」と話す。
市交通局では、年内にも3両編成の新型車両を計2編成導入する計画。ただ、詳細な導入時期が決まっていないため、ダイヤの維持は綱渡り状態が続く。「かなり厳しい状況だが、安全運行を第一に車両を運用していく」としている。(九重陽平)
市電事故、右折車との接触多く 市交通局「右後方の確認徹底を」
熊本市電と車の事故で多いのは、今回のように直進する電車と右折車との接触だ。市交通局によると、2018~22年の5年間に、市電と車の事故は130件発生。このうち8割の106件が、電車と並走していた車が、右折のために軌道敷内に進入したことで発生したという。
路面電車は、車と比べて停止距離が長い。時速25キロでは、車が8・7メートルで止まれるのに対し、電車は25・8メートル。6・4秒かかるという。市交通局は「電車は急に止まれない。左右に曲がれないため、突然、車が目の前に出てくると避けることができない」とする。
事故防止のため、市交通局は昨年3月から、音楽と音声で周囲に注意を促す「メロディーホーン」を車両に順次取り付け。交差点や電停近く、渋滞区間などで鳴らすことで、ドライバーに注意喚起する。
市交通局は「いま一度、右折前に右後方の確認を徹底してほしい」と呼びかけている。(九重陽平)
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