「限界」の輸送力 混雑、積み残し…解消見えず【次代への模索 熊本市電100年】㊤
熊本市電は8月1日、開業100周年の節目を迎えた。県都の基幹公共交通としての役割を担う一方、ラッシュ時の混雑や続発するトラブル、経営環境の厳しさといった安全・安定運行を揺るがす課題に直面している。市電の現在地を見つめ、次代への道筋を探る。
◇ ◇
7月中旬の平日の早朝、熊本市電の健軍町電停(熊本市東区)は電車を待つ乗客でごった返していた。午前7時半。行列は電停をはみだして近くのアーケードまで延び、あっという間に50メートルほどの長さになった。
西区の上熊本まで通う専門学校1年の川﨑愛[まな]さん=益城町=は「電車に乗れずに学校に遅刻したことがある」と困り顔。九州学院高1年の三石彩巴[いろは]さん=益城町=は「何とか乗ろうと、赤信号なのに横断歩道を渡る人がいる」と心配する。
市街地を縫うように走る市電。健軍町-熊本駅前・田崎橋、健軍町-上熊本の2系統あり、沿線には企業や市役所、商業施設、アーケード街、学校などが集まる。朝のラッシュ時は数分間隔の過密ダイヤを余儀なくされている。
混雑や積み残しは健軍町電停だけの話ではない。JRからの乗り換え客が加わる新水前寺駅前や熊本駅前でも発生。朝のラッシュ時、市中心部に向かう車両に集中する特徴がある。
年間1千万人前後で推移していた乗客数。新型コロナウイルス禍で2020年度は約673万人まで落ち込んだものの、23年度は速報値で約1008万人に回復した。
市交通局は、混雑する電停での折り返し便や臨時便の運行といった対策はするものの、解消には至っていない。「ラッシュ時のダイヤは東京並み。これ以上は人も車両もいない」。交通事業管理者の井芹和哉氏は〝限界〟を認める。
乗務員を巡っては近年、賃金の安さや不安定な雇用形態を背景に、退職や病気による休職が相次ぐ。車両の老朽化も目立ち、平均車齢は44年を超えた。
人も車両も綱渡りの状態にあるため、市交通局は6月、過去最大規模となる1割強の減便を実施した。これがラッシュ時の混雑に拍車をかけている。
安定運行を続けるための「苦渋の決断」と井芹氏。とはいえ、利便性の低下は免れない。輸送力強化が喫緊の課題となっている。
改善策として、市は初めて3両編成の新型車両を導入する。年内にも2編成を投入し、25年度はさらに2編成を加える予定だ。運転士も新たに採用し、乗務できるようになる25年4月には減便の解消を見込む。
25年度は乗務員の処遇改善を目的に、新たな経営形態「上下分離方式」への移行も計画する。
市は、市電を人口減少や超高齢社会に対応する基幹公共交通に位置付けている。台湾積体電路製造(TSMC)の進出もあって、熊本都市圏の交通渋滞は深刻化。市電をマイカーからの転換を促す「受け皿」にしたい考えだ。
大西一史市長は「公共交通の軸となるルートを増やすことが利用の促進につながる」として、市電のさらなる延伸にも意欲を示す。 こうした青写真も、今、目の前に抱える混雑の解消や、トラブルを起こさない安定運行を実現できてこそだ。次の100年へ、「市民の足」はどうあるべきか-。模索が続く。(臼杵大介、上村彩綾)
RECOMMEND
あなたにおすすめPICK UP
注目コンテンツNEWS LIST
熊本のニュース-
出所後、社会に居場所を 元受刑者の青木さん、熊本市で自立準備ホーム運営 更生後押し「人は変われる」
熊本日日新聞 -
【ジュニア記録室】卓球・第38回八代市オープン小学生
熊本日日新聞 -
【ジュニア記録室】柔道・第50回玉名郡市防犯少年
熊本日日新聞 -
熊本県内のおせち商戦、値上げでも活況 「メリハリ消費」反映し予約順調 材料の工夫で価格据え置く店も
熊本日日新聞 -
「フリーランス」新法施行で相談窓口 熊本労働局・労基署が設置 既に複数の相談も…
熊本日日新聞 -
熊本県立校いじめ「重大事態」で初会合 県教委第三者委、今後の方針で意見交換 校種や概要は非公表
熊本日日新聞 -
「異常気象は今が瀬戸際」 三重大大学院の立花教授が講演 熊日情報文化懇話会11月例会
熊本日日新聞 -
水俣市、許可受けず最低賃金未満で雇用 労働基準監督署から是正勧告
熊本日日新聞 -
山下さん(熊本農高3年)のビビンバがグランプリ 野菜をふんだんに使ったレシピ 宇城市「ベジ1コンテスト」
熊本日日新聞 -
一緒にちらしずし、台湾出身者と心通わせる 菊陽町「多文化クラブ」
熊本日日新聞
STORY
連載・企画-
移動の足を考える
熊本都市圏の住民の間には、慢性化している交通渋滞への不満が強くあります。台湾積体電路製造(TSMC)の菊陽町進出などでこの状況に拍車が掛かるとみられる中、「渋滞都市」から抜け出す取り組みが急務。その切り札とみられるのが公共交通機関の活性化です。連載企画「移動の足を考える」では、それぞれの交通機関の現状を紹介し、あるべき姿を模索します。
-
学んで得する!お金の話「まね得」
お金に関する知識が生活防衛やより良い生活につながる時代。税金や年金、投資に新NISA、相続や保険などお金に関わる正しい知識を、しっかりした家計管理で安心して生活したい記者と一緒に、楽しく学んでいきましょう。
※次回は「家計管理」。11月25日(月)に更新予定です。