熊本赤十字病院、災害現場の救助活動支援へ機材やシステム独自開発 インフラ整え被災地に「病院」
熊本赤十字病院(熊本市東区)は地震や豪雨などの災害現場で、電気・通信といったインフラが断絶した際の救助活動を支援するため、企業と協力して専用の機材やシステムを相次いで独自開発してきた。1月に発生した能登半島地震の現場にも投入し、携帯電話の位置情報を活用した孤立集落の特定をはじめ、多くの場面で成果を上げている。
熊本赤十字病院は2000年に日本赤十字社で初めて、「国際医療救援拠点病院」の指定を受けた。これまでにインドネシアのスマトラ島沖地震やネパール地震などの被災地に、医師ら約300人を派遣した。16年の熊本地震のほか、国内でも支援を続けている。
機材やシステムの独自開発の背景には、困難を伴う海外での活動経験がある。国際医療救援拠点病院に指定された当初、テントなどは海外製の資機材を使用していたが、重くて使い勝手も悪かったため苦労した。05年のパキスタン北部地震では断水した地域での活動となり、水をくむのに仮設診療所から谷底まで降りなければならなかった。これらの教訓から、使いやすく持ち運びの簡単な機材や給水施設を開発する必要性が浮かび上がった。
熊本赤十字病院は趣旨に賛同する企業の協力を得ながら、さまざまな機材を開発した。太陽光発電を備え、汚水を微生物が分解する「自己処理型」の水洗トイレは、被災地で電線や上下水道を不要とした。燃料電池を積んだ医療車は野外診療所での電力供給に力を発揮する。
救援技術研究課の曽篠恭裕課長(52)は開発の狙いについて「電気、上下水道、通信といったインフラが全て移動可能になることで、被災地に病院を開設するイメージ。インフラを整えなければ、医療従事者の安全や健康を保ちながら長期間活動することすらできない」と説明する。
開発した機材は日常的な使用を提唱し、福岡県の道の駅に設置した「自己処理型」の水洗トイレは能登半島地震の被災地に移設して活用された。
被災地での活動には情報通信技術(ICT)も欠かせない。ソフトバンク系情報サービス会社「Agoop(アグープ)」が提供する匿名化した携帯電話の位置情報を状況把握に活用する。能登半島地震では人が移動した形跡がない道路を把握し、孤立集落や自主避難所を特定した。情報は現地の救援チームに伝え、救援活動に生かされた。
災害時の救援活動だけでなく、平時にも技術開発や研究に取り組み、活動の幅が広がっている。曽篠課長は「技術が先にあるのではなく『現場で困っていることの解決にこの技術が使えるのでは』という開発の順序を崩してはいけない」と強調する。
今後も位置情報データの避難訓練への活用や医療ドローンなどの新たな技術開発を進めていくという。(丸山伸太郎)
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