スタートの直後、見えたのは… 鈍った実戦の勘、向き合った課題【電子版限定 ありさ記者の走リスタート⑥】
![周囲の選手に食らい付く東有咲記者=2023年11月11日、えがお健康スタジアム](/sites/default/files/styles/crop_default/public/2024-01/IP231212TAN000131000_02.jpg?itok=3h_6kOUV)
![スタートの合図で勢いよく飛び出す東有咲記者=2023年11月11日、えがお健康スタジアム](/sites/default/files/styles/crop_default/public/2024-01/IP231212TAN000130000_02.jpg?itok=5UGJOlNb)
2023年11月11日午前11時40分。中学3年生以来、12年ぶりの公式レースのスタートまで15分を切った。女子一般・高校100メートルに出場する選手30人が、組ごとに長椅子に座って出番を待った。
「この感じ、懐かしいな」。現役時代は、横に目を向けると、顔見知りの選手ばかり。何げない会話をしながらレースへの緊張をほぐすのが私のルーティンだった。今回は見知らぬ高校生がほとんど。気合の入った鉢巻き姿に、歩くたびに響く専用スパイクの足音。「今の私は普通のランニングシューズか」。緊張が高まった。
私の4組目が呼ばれた。スターティングブロックを調整し、ダッシュをしてトラックを蹴る感覚を確かめる。「冷静に」と自分に言い聞かせながら、深呼吸して合図を待った。
「オン・ユア・マークス」。「今は『位置について』じゃなく、英語の合図なんだ」と思いながらスタートの姿勢を取った。「セット」。陸上クラブを運営する平野龍さん(46)に教えてもらった「腰を上げた時、少し後ろに下げる」の助言を思い出した。「できる」。集中を高めた。
「パンッ!」。乾いた音に体が反応した。割とうまくスタートを切れたと思ったが、すぐに両側の選手の背中が視界に入った。「食らい付かなきゃ」。力が入り、上体が起き上がった。「習ったこと、全然できてないよ」。心の中で半べそをかきながら必死に追いかけた。残り20メートル。もう息が苦しい。あと少し…。力を振り絞りゴールラインに飛び込んだ。
![フィニッシュを目指して力走する東有咲記者=2023年11月11日、えがお健康スタジアム](/sites/default/files/styles/crop_default/public/2024-01/IP231111TAN000049000_02.jpg?itok=sfJWWPAs)
結果は最下位。「引き離されちゃった。17秒台かも…」。そう思っているところに、「頑張ったね」「ちゃんと食らい付いていたよ」。レース模様を撮影した上司2人に加え、有力選手の取材で居合わせた後輩記者が声をかけてくれた。体の力が一気に抜けた。
約1時間後、掲示板にレース結果が張り出された。「東有咲 16秒17」。手動計測時から0秒51短縮。周りの選手に引っ張られたのか、手応え以上のタイムでうれしかった。しかし、時間がたつにつれて、悔しさが込み上げた。学生時代は大会でも、運動会の徒競走でも、いつも上位だった。
![フィニッシュ後、照れ笑いを浮かべる東有咲記者=2023年11月11日、えがお健康スタジアム](/sites/default/files/styles/crop_default/public/2024-01/IP231111TAN000051000_02.jpg?itok=NukoY7mI)
腕の振り、脚の上げ方、スタートダッシュ…。思った以上に、自分が描くフォームで走れなかった。「これが現役を退いて鈍った実戦感覚なのかも」。
でも、現役から離れた私だからこそ、感じたこともある。競技場ですれ違った小中学生たちの目は、みんなキラキラと輝いていた。「やっぱり走るって、楽しいよね」。思わず声をかけたくなった。
私も走ることが楽しくて陸上を始めた。成績が上がるにつれて、「速く走らなきゃ」という義務感が強くなった。意欲と同じく大切なのは、純粋に走りを楽しむ心。それを忘れず、〝2度目の現役〟に挑みたい。(東有咲)
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