【この人に聞く・熊本地震40】熊本大法学部の伊藤洋典教授 地方議会の災害対応 「行動基準定め、行政監視を」
大規模災害時、地方議会はどのような役割を果たすべきか。熊本地震で大きく被災した熊本市、益城町、御船町、南阿蘇村の各議会の活動状況を論文にまとめた熊本大法学部の伊藤洋典教授(政治学)に評価や課題を聞いた。(聞き手・並松昭光)
-行政の災害対応ではなく、議会に注目した理由は何ですか。
「なり手不足や選挙の低投票率に表れているように、地方議会の存在が揺らいでいる。災害対策基本法に議会の役割は規定されていないが、非常時にこそ議会の存在意義が発揮されるのではないかと考えた」
-活動記録や議員への聞き取りを基に対応を検証しました。
「注目したのは御船町議会。地震後も通年議会の利点を生かし、全員協議会を頻繁に開いて被災状況の把握や対応の検討を重ねた。その結果を町への要望書にまとめ、町の対応も議会の広報誌で知らせた。議会報告会でも住民の不安や疑問を聞くなどした。住民の声を執行部に伝え、施策に反映させる役割を果たす努力は評価したい」
「一方で、小規模な議会では、執行部の災害対策本部にオブザーバー参加するなど行政と“一体化”しているケースも見られた。議会の役割は行政の災害対応を検証したり、問題を洗い出すことにある。一線は引いておくべきだった」
-被災者支援など既存制度の拡充や新制度の創設なども政治の役割ではありませんか。
「市町村議会では対応できない課題が多く、被災者の生活再建や財政支援などの要望を国などに提出している。ただ、政党や議会会派、個人としての動きが目立ち、初動期に議会としての統一した活動が総じて鈍かった。施設の原形復旧に力点を置く国の災害対応を個人の救済に変えていくためには国の政治的判断が必要であり、地方からの政治ルートによる働き掛けは今後とも大切だ」
-議会の課題とは。
「議会に行政のような業務継続計画(BCP)がなく災害対応の共通理解がなかったことが、場当たり的な対応を招いた。先駆けとなった滋賀県大津市議会のBCPは災害時の議会の役割や執行部との関係性、議員の行動基準などを明記し、行政を監視する機能の早期回復を重視している」
「熊本市議会は地震直後の2016年6月定例会を1日だけの会期としたが、行政監視の観点から適切だったかは検証の必要がある。BCP策定は議員が自らの役割を問い直す意味があり、住民に地方議会の存在意義を理解してもらうことにつながる」
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