【この人に聞く・熊本地震38】日本マンション学会の折田泰宏弁護士 解体、修復巡る課題 「住民だけでの再建は困難」
熊本地震では熊本市を中心に、多くのマンションが被害を受けた。地震から1年半がたつ中、公費解体や修復を巡って住民はさまざまな困難に直面している。震災直後から熊本で調査を続けてきた日本マンション学会・熊本地震特別研究委員会委員長の折田泰宏弁護士に、被災マンション特有の課題について聞いた。(馬場正広)
-学会は9月下旬、熊本市の被災マンションを視察しました。個人的にも何度も足を運ばれています。
「2013年の改正で、取り壊しなどの要件が緩和された特措法『被災マンション法』が解体段階から適用されるのは、熊本地震が初のケース。熊本は、今後の被災地の基準ないしモデルになる」
-被災マンション法に基づく建物取り壊しの住民決議では、合意形成の難しさが目立ちました。
「東日本大震災の被災地では、昨年やっと一連の処理を終えたマンションもある。多数の所有権が一つの建物に集う性質上、取り壊しや修復を決めるにはどうしても時間がかかる。決議後も、建物内に残された家具などの動産処理の問題があるが、行政には柔軟な対応を望みたい」
-取り壊しを決めた後も、別の課題に直面します。
「敷地売却や建て替えの準備は煩雑。売却では、相手先や金額を明らかにし、再び決議しなければならない。抵当権が設定されている場合は、早い段階で債権者と交渉を進めなければ長期化する恐れもある。学会は敷地売却時の所有権一括化などを助言しているが、弁護士など、専門家の支援が必須になる」
-修復の場合は公的支援も限られます。
「エレベーターや渡り廊下など、マンションの復旧には一戸建てと比べて膨大な費用がかかる。しかし、現在自治体が実施しているマンションの罹災[りさい]証明判定には、その点が加味されておらず、応急修理などの支援制度と被害がかみ合っていない。判定基準の見直しも、今後の検討材料だ」
-熊本地震から、学ぶべき教訓は。
「被災マンションに関する、住まい再建への実務的な手引がない。住民だけで、住まい再建を進めるのは困難。国は、一連の手順のマニュアル化を進めてほしい」
「熊本には管理組合が機能してない管理不全のマンションもあった。行政は震災を機に、県内のマンションの実態を把握し直し、関係団体との連携を深め、問題解決に向けて積極的に働き掛けるプッシュ型の支援を展開すべきだ」
◇おりた・やすひろ 東京大法学部卒。1969年に宇都宮地方裁判所判事補に任官。75年に弁護士に転身し、行政訴訟や欠陥住宅問題、マンション管理などを扱う。元日本マンション学会会長。台湾出身。京都市在住。73歳。
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