【この人に聞く・熊本地震37】福島県立医科大の前田正治主任教授 行政職員の心のケア 「復興スピード落とす決断も」
熊本地震からの復興が進む中で、行政職員の疲弊が問題となっている。時間外労働の増加による過労だけでなく、ストレスで心を病むケースも多い。何が行政職員の心を疲弊させるのか。どう対策を講じるべきなのか-。東日本大震災で、復興期の行政職員の心のケアを研究している福島県立医科大「災害こころの医学講座」の前田正治主任教授に聞いた。(上田良志)
-復興期に行政職員の心の健康に悪影響が出るのはなぜですか。
「人的余裕がなく、経験したことのない激務の中で住民の不安や不満、怒りにさらされてしまうのが大きな要因だ。救出活動や被災者支援で称賛された消防隊員や自衛隊員と違って、行政職員は非難されることが多い。自らも被災者なのに、それを前面に出すこともできず、地元住民の目を意識して休みも取りづらい。心を病んで休職せざるを得ないような深刻な状況になるまで葛藤は続く」
「行政職員が倒れてしまえば、復興はままならない。行政職員の心のケアは、復興期の最重要課題と言ってもいい」
-東日本大震災の3年後に前田主任教授らが実施した調査では、うつ病になった職員が18%に上る被災自治体もあるなど、深刻な状況が明らかになりました。現在、行政職員の心の健康は保たれていますか。
「福島県では今年1~2月、自治体の職員が5人も自殺したが、震災の影響が大きい。非常事態という認識だ。職員の心の健康状態は、復興の進展と大いに関係がある。復興が進まない自治体では、本来ならば部下をケアしなければならない管理職の疲弊も強く、組織全体が健康を失いつつある」
-心の健康を保つための対策は。
「重要なのは、定期的に休むこと。罪悪感を持たずに休めるよう、組織のトップが強制的にシフトに公休を組み込むことも有効だ。また、住民からの支持や感謝は、最良の薬となる。激務に追われる職員に住民が理解を示し、『お疲れさま』と一声掛けるなど、“心の報酬”を与えてあげることが大事だ」
-熊本地震での行政職員への対策をどう評価していますか。
「県をはじめ多くの自治体が被災当初から課題として認識し、心のケアの調査も早かった。東日本大震災とは雲泥の差で、教訓は生かされている。しかし、まだ十分ではない。行政職員を支援する仕組みの構築が必要だ。国が責任を持って対応するか、市町村が広域連合などで一定規模の常設チームをつくる方がいい」
「公費解体の終了時期など、復興の目標に期限を設定することは必要だろうが、そこに職員の疲弊の概念も組み入れるべきだ。復興は道のりが長く、マラソンのようなもので『頑張れ』だけでは乗り切れない。自治体の状況によっては、復興事業のスピードをスローダウンするような決断も必要だ」
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