【この人に聞く・熊本地震37】福島県立医科大の前田正治主任教授 行政職員の心のケア 「復興スピード落とす決断も」
![◇<b>まえだ・まさはる</b> 1960年、北九州市生まれ。久留米大医学部卒。専門はトラウマ関連障害。久留米大准教授などを経て、2013年から現職。57歳。](/sites/default/files/styles/crop_default/public/2024-01/IP170621TAN000118000_03.jpg?itok=LIhso7p3)
熊本地震からの復興が進む中で、行政職員の疲弊が問題となっている。時間外労働の増加による過労だけでなく、ストレスで心を病むケースも多い。何が行政職員の心を疲弊させるのか。どう対策を講じるべきなのか-。東日本大震災で、復興期の行政職員の心のケアを研究している福島県立医科大「災害こころの医学講座」の前田正治主任教授に聞いた。(上田良志)
-復興期に行政職員の心の健康に悪影響が出るのはなぜですか。
「人的余裕がなく、経験したことのない激務の中で住民の不安や不満、怒りにさらされてしまうのが大きな要因だ。救出活動や被災者支援で称賛された消防隊員や自衛隊員と違って、行政職員は非難されることが多い。自らも被災者なのに、それを前面に出すこともできず、地元住民の目を意識して休みも取りづらい。心を病んで休職せざるを得ないような深刻な状況になるまで葛藤は続く」
「行政職員が倒れてしまえば、復興はままならない。行政職員の心のケアは、復興期の最重要課題と言ってもいい」
-東日本大震災の3年後に前田主任教授らが実施した調査では、うつ病になった職員が18%に上る被災自治体もあるなど、深刻な状況が明らかになりました。現在、行政職員の心の健康は保たれていますか。
「福島県では今年1~2月、自治体の職員が5人も自殺したが、震災の影響が大きい。非常事態という認識だ。職員の心の健康状態は、復興の進展と大いに関係がある。復興が進まない自治体では、本来ならば部下をケアしなければならない管理職の疲弊も強く、組織全体が健康を失いつつある」
-心の健康を保つための対策は。
「重要なのは、定期的に休むこと。罪悪感を持たずに休めるよう、組織のトップが強制的にシフトに公休を組み込むことも有効だ。また、住民からの支持や感謝は、最良の薬となる。激務に追われる職員に住民が理解を示し、『お疲れさま』と一声掛けるなど、“心の報酬”を与えてあげることが大事だ」
-熊本地震での行政職員への対策をどう評価していますか。
「県をはじめ多くの自治体が被災当初から課題として認識し、心のケアの調査も早かった。東日本大震災とは雲泥の差で、教訓は生かされている。しかし、まだ十分ではない。行政職員を支援する仕組みの構築が必要だ。国が責任を持って対応するか、市町村が広域連合などで一定規模の常設チームをつくる方がいい」
「公費解体の終了時期など、復興の目標に期限を設定することは必要だろうが、そこに職員の疲弊の概念も組み入れるべきだ。復興は道のりが長く、マラソンのようなもので『頑張れ』だけでは乗り切れない。自治体の状況によっては、復興事業のスピードをスローダウンするような決断も必要だ」
RECOMMEND
あなたにおすすめPICK UP
注目コンテンツTHEMES
熊本地震-
地震で崩れた熊本城石垣、修復の担い手育成を 造園職人向けに研修会
熊本日日新聞 -
熊本地震で被災の油彩画、修復報告展 御船町出身・故田中憲一さんの18点 熊本県立美術館分館
熊本日日新聞 -
熊本城復旧などの進捗を確認 市歴史まちづくり協議会
熊本日日新聞 -
熊本市の魅力、海外メディアにアピール 東京・日本外国特派員協会で「熊本ナイト」 熊本城の復興や半導体集積
熊本日日新聞 -
熊本地震で被災…益城町が能登支える「芋フェス」 11日、NPOなど企画 能登の特産品販売、トークショーも
熊本日日新聞 -
「安全な車中泊」普及へ、熊本で産学官連携 避難者の実態把握、情報提供…双方向のアプリ開発へ
熊本日日新聞 -
石之室古墳、石棺修復へ作業場設置 熊本市の塚原古墳群 2027年度から復旧工事
熊本日日新聞 -
中居さん引退「気持ちの整理つかない」 県内ファン、驚きと困惑
熊本日日新聞 -
4期16年「県民の幸せに尽くした」 前熊本県知事・蒲島氏が講演 熊日情報文化懇話会1月例会
熊本日日新聞 -
【あの日から 阪神大震災30年=インタビュー「熊本への助言」㊦】伝承、防災考えるきっかけに 北淡震災記念公園総支配人の米山さん
熊本日日新聞
STORY
連載・企画-
移動の足を考える
熊本都市圏の住民の間には、慢性化している交通渋滞への不満が強くあります。台湾積体電路製造(TSMC)の菊陽町進出などでこの状況に拍車が掛かるとみられる中、「渋滞都市」から抜け出す取り組みが急務。その切り札とみられるのが公共交通機関の活性化です。連載企画「移動の足を考える」では、それぞれの交通機関の現状を紹介し、あるべき姿を模索します。
-
学んで得する!お金の話「まね得」
お金に関する知識が生活防衛やより良い生活につながる時代。税金や年金、投資に新NISA、相続や保険などお金に関わる正しい知識を、しっかりした家計管理で安心して生活したい記者と一緒に、楽しく学びましょう。
※この連載企画の更新は終了しました。1年間のご愛読、ありがとうございました。エフエム熊本のラジオ版「聴いて得する!お金の話『まね得』」は、引き続き放送中です。