【この人に聞く・熊本地震1年⑤】熊本こころのケアセンター長、精神科医の矢田部裕介さん 被災者の心の支援 「周囲の声掛けが大切」
熊本地震の被災者を心理面から支える県の「熊本こころのケアセンター」が県精神保健福祉センター(熊本市東区)内に開所して半年。4月からセンター長を務める精神科医の矢田部裕介さん(41)に、活動の内容や心の復興のポイントを聞いた。(清島理紗)
-地震から1年。被災者の心理面で気を付けなければならないことは何ですか。
「気持ちが混乱する『茫然[ぼうぜん]自失期』、被災地が連帯感に包まれる『ハネムーン期』を経て、災害後1~2年は『幻滅期』と呼ばれる。生活再建が進む人がいる一方、先が見えない人は取り残されたように感じる時期だ」
「特にみなし仮設に住む被災者はコミュニティーに入れず、孤立感を深める場合がある。そういう人を見落とさず、周囲が『気に掛けているよ』と伝え続けることが大切だ」
-センターの活動内容を教えてください。
「被災者の相談に電話や訪問で応じる。3月までは保健師2人と相談支援員5人だったが、4月から精神科医の私と精神保健福祉士、臨床心理士各1人が常勤として加わった。幅広いニーズに応えることができる体制になった」
「自分から声を発しにくい被災者もいる。そこで被災12市町村と協力して仮設住宅とみなし仮設の住民を対象に健康調査を始めた。益城町は18歳以上の全世帯。質問票を郵送しており、体重の増減や飲酒量などを尋ねる。6月をめどに回答を集計する。地域別や住まいの形態ごとに、被災者の心の状態を把握したい」
-今後の取り組みの予定は。
「被災者の相談に直接応じるのも大切だが、同時に支援者の人材育成とスキルアップに力を注ぐ。熊本こころのケアセンターは5年という期限付きの組織で、マンパワーにも限りがある。被災者に近い立場で頑張っている支援者をバックアップすることも大切な業務の一つだ。保健師や市町村職員を対象に、子どもの心のケアやアルコール問題をテーマにした研修会や講演会を開く予定。人材を育てることで、より被災者に寄り添ったケアの体制ができる」
「専門職だけでなく、一般の県民も心のケアの重要な担い手だと知ってほしい。ご近所の住人が引きこもりがちだったり、元気をなくしたりという変化に気付けるコミュニティーづくりが大切。声掛けや地域の行事を通した絆が心の復興につながると思う」
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