【この人に聞く・熊本地震22】日本歯科医師会災害歯科コーディネーターの中久木康一さん 災害時の口腔ケア、課題は? 「高齢者、誤嚥性肺炎に注意」
熊本地震では県内外の歯科医師や歯科衛生士など、ボランティアを含め延べ約1200人の歯科関係者が支援に当たった。災害時に必要な口の中(口腔[こうくう])のケアや支援の課題などを、日本歯科医師会災害歯科コーディネーターの中久木康一・歯科医師(44)に聞いた。(林田賢一郎)
-歯科医師会は今回、どう対応しましたか。
「熊本県歯科医師会は前震翌日の4月15日から、全国の歯科医師会も22日には被災地入りした。往診時に使う、歯を削るポータブルユニットや洗浄水を持参し、診療や義歯修理などの応急処置に当たった。避難所には食料はあっても、歯ブラシや入れ歯の洗浄剤、フロス、歯間ブラシがなく、それらも持参しケアした」
「大規模災害時、避難所では食事や救急医療が優先され、口腔ケアはおろそかになりがち。東日本大震災では、公的な歯科医派遣は1カ月遅れた。その反省を踏まえ、早期から介入できた」
-早期介入がなぜ必要なのですか。
「高齢者や障害者は誤嚥[ごえん]性肺炎の危険が高くなる。水がないため歯を磨かず、唾液も少なくなると、口内に細菌などが増える。誤って肺に入ると肺炎を引き起こす。阪神大震災の震災関連死のうち、24%は肺炎だった」
-危険性が高いのはどのような被災者ですか。
「高齢者や障害者ら、援助が必要な生活弱者。周囲に気を使って大規模避難所に行かず、自主避難所や福祉施設、危険でも自宅にとどまり、支援が届きにくい。胃ろうなどチューブで栄養摂取している人も常に口腔ケアが必要なのに、見逃されやすい」
「災害時は多様な専門職が支援に集まり、被災者の命を守る。普段から横のつながりを持ち、総合力で対応すべきだ。日本歯科医師会も2010年から、災害歯科医療のコーディネーター育成を始めた。歯科関係団体による協議会も立ち上げ、災害対応マニュアルを作っていく計画だ」
-避難所で気になった点はありますか。
「居場所から水場まで遠く、水はあっても2リットル入りのペットボトルが地面に置かれているケースがあった。健康な人には何でもないが、高齢者には大きな負担になる。歯を磨き、入れ歯を洗うような日常生活を促すための、ちょっとした配慮が必要だ」
-被災者の暮らしは仮設住宅や自宅に移っていきます。
「水場に手すりや棚があるだけで生活しやすい。既にスロープ付きの仮設住宅が建設されるなど、東日本大震災時よりも進んでいると感じる。災害対応に完璧はないかもしれないが、前よりも進んでいかねばならない」
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