【この人に聞く・熊本地震⑭】東京・文京区の保健所課長補佐の中臣昌広さん 避難所の衛生管理は? 「炊き出しの作り置き避けて」
熊本地震で続いている避難所生活。気温や湿度の上昇につれて、熱中症の発生や衛生状態の悪化も心配される。東日本大震災の際に避難所の衛生管理に当たった東京都文京区の文京保健所生活衛生課長補佐、中臣昌広さん(58)に、対策や課題を聞いた。(馬場正広)
-熊本市保健所に協力し、市内の避難所を調査しましたね。夏本番を迎え、懸念されることは何でしょうか。
「東日本大震災の東北との違いは、熊本は湿度と気温が高いということ。熊本市西区の指定避難所では空調設備が故障し、高齢者らが熱中症の症状を訴えた。避難所での熱中症は、これまでの災害ではあまり経験したことがない。設備を再点検しておく必要がある」
「居住スペースに設置されているパーテーションは、空気の循環を悪くするデメリットがある。ぜんそくの人は症状が悪化する場合も考えられる。送風機を使って新鮮な空気を送り込むなど、工夫すべきだ」
-南阿蘇村の避難所ではノロウイルスの感染が起きました。
「例えば、仮設トイレを利用した後、便が靴に付着したまま就寝スペースなどに近づき、知らないうちにノロウイルスに感染してしまう可能性もある。不特定多数が集まる避難所は外と居住空間の区別がつきにくく、菌がまん延しやすい。避難者も高いストレスから体調の維持管理がうまくいかず、健康を害しやすい」
-熊本市内では食中毒も起きました。どういった衛生管理が必要ですか。
「食べ物は調理後すぐ消費するのが基本。下痢などの症状を引き起こすボツリヌス菌など、加熱で死なない菌もある。これからは特に炊き出しの作り置きは避けるべきだ。供給する側は手袋を着け、食べる人は必ず手を洗う。菌を極力近づけない努力が必要」
-銭湯などが被災者に浴場を開放しています。衛生上の注意点はありますか。
「6月下旬に熊本市の各浴場を調査したが、比較的清潔に保たれていた。ただ、普段とは違って幅広い層が利用している。浴槽やお湯の貯蔵タンクなど、通常より汚れやすく、注意すべきだ」
-自治体へのアドバイスはありますか。
「避難所運営は健常者目線になりがち。疾患を持つ“健康弱者”や引きこもりがちな高齢者らへの配慮が欠かせない。東北では各避難所に掃除機を配備し、月に1度大掃除をしてもらっていた。居住空間を清潔に保ちながら、避難者間でコミュニケーションを取ることもできた」
「5月から熊本市保健所と協力し、定期的に避難所の衛生状態を調査している。衛生管理については国の詳細なガイドラインがなく、各自治体に任せきりだった。熊本地震の経験を基に、衛生についての『熊本モデル』を確立し、今後の災害対策に生かしたい」
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