五木村の振興計画、村と国・熊本県が合意 「流水型ダム」に関する文言削除 ダムの影響評価手続きは継続

熊本日日新聞 | 2023年5月15日 17:40

五木村振興計画の確認式で考えを述べる木下丈二村長(中央)。左端は蒲島郁夫知事=15日午前、同村役場(谷川剛)

 熊本県の川辺川に建設予定の流水型ダムの貯水時に一部地区の水没が想定される五木村の新たな振興計画が決まった。ダム建設と振興を切り離すことを求めた村の意向をくみ、県と国が流水型ダムに関する文言を削除することで15日、国、県、村で最終合意した。

 振興計画は球磨川支流の川辺川へのダム建設問題で長年、翻弄[ほんろう]されてきた村の活性化を狙う。2023年度から27年度までを第1期と位置づけた。その後は5年をめどに見直す。

 計画実現に向け、県が約20年間で総額100億円規模の財政支援をする考え。50億円は村の基金に積み立てるため、県が交付する。残り50億円は、国のダム関連事業の付け替え道路事業を中止した場合などに不要になる県負担金を見込んでいる。

 この日、五木村役場であった3者の確認式で、木下丈二村長は「村は人口減少が進み、危機的状況。国や県はスピード感を持って振興計画に取り組んでほしい」と求めた。

 蒲島郁夫知事は「これまで以上の責任と覚悟で臨む」と応じ、計画の具体化に向けて県職員の村への派遣を増やす考えも表明。国土交通省九州地方整備局の藤巻浩之局長は「流水型ダムの構造や環境に与える影響の検討を進め、村民に説明したい」と述べた。

 振興計画はダム建設の賛否を決めていない村側に配慮し、ダムに関する記述をすべて削除。具体策として、移住・定住の促進に向けた新たな平場の確保や、グループホームといった住宅・福祉施設の整備、オンライン診療も見据えた全世帯へのタブレット端末の配布などを列挙した。

 宿泊施設「渓流ヴィラITSUKI」や公園「五木源[ごきげん]パーク」といったダムの貯水時に水没が見込まれる一帯については、村民主体の協議会を設けて対応を検討することを盛り込んだ。

 川辺川へのダム整備を巡っては、蒲島知事が08年、当時の建設計画の白紙撤回を表明したが、20年7月の豪雨被害を受け、新たなダムの容認にかじを切った。

 国は27年度の本体工事着手、35年度完成に向け、流水型ダムの環境影響評価の手続きを進めている。木下村長は環境への影響といったダムの全容を把握した上で建設の賛否を判断する構えだ。(内田裕之)

五木村振興計画に合意後、記者団の質問に答える木下丈二村長=15日午前、同村役場(谷川剛)

 ◆「ダム容認の判断、まだできない」 木下丈二村長の一問一答

 国と県、五木村が新たな村振興計画に正式合意後、木下丈二村長が現在の心境や村の今後について語った。記者団との主なやりとりは次の通り。(横山千尋)

 -振興計画がまとまった現在の率直な思いを聞かせてください。

 「国と県からさまざまな支援をいただき、大変うれしく思う。時間はかかったが、これで新たなスタートが切れる。村は人口減少や少子高齢化で存亡にかかわる危機的な状況にある。村の振興は待ったなし。強い覚悟を持って進めていく決意を新たにしたところだ」

 -国、県への要望は。

 「一日も早く具体化するよう、スピード感を持って進めてもらいたい。振興計画が迅速かつ着実に推進するよう、住民説明会を早急に開いてほしい」

 -流水型ダムを建設する賛否について、村長は明言していません。

 「ダムによる環境への影響がまだ明らかになっておらず、ダムを容認するかどうか、判断できる状況になっていない。まずは、国が示す環境への影響に関する評価結果を踏まえる必要がある。全容を把握してから、村民の意見も聞いた上で判断したい」

川辺川ダム

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