【あの時何が 熊本市上下水道局編⑧】 苦労重ねた2週間、全域供給を再開
「ご迷惑をおかけしました。水が出るようになります」。昨年4月30日朝、熊本市上下水道局計画調整課に所属する技術主幹兼主査の小山博(46)と技師の成田潤子(28)は、南区城南町の築地・上村地区をくまなく歩き、午後に予定した通水再開を住民に伝えた。
約40世帯が暮らす地区内の上水道は、やぐらに置いた貯水槽が起点。しかし、熊本地震でやぐらが倒壊し、井戸やポンプも壊れた。水道局は市全域で「修理」による復旧を急いだが、相当の時間が見込まれた同地区に限っては断念。修理でなく、水源を別の井戸に切り替える方法を取った。約520メートルにわたる仮配管の設置を終えるまで市内で唯一、断水が続いていた。
小山と成田は、管路の設計や修理方針を担当する部署で経験を積んできた技術者だ。仮配管工事を任されて22日に現場入り。通常の倍の速さで工事が進むよう管の接続箇所を少なく設計し、管を地下に埋める深さも半分ほどに抑えるなど、工期短縮に知恵を絞った。
苦労を重ねてたどり着いた通水再開。現場で水質を確認した小山は30日午後3時半、計画調整課長(当時)の岩本英紀[ひでのり](59)にメールで「完了」を連絡。そして夕方6時、水道局は市全域への水の供給が可能になったと発表した。熊本市として初の「全戸断水」に陥った本震から、2週間がたっていた。
ただ、全ての蛇口から水が出るまで完全復旧したわけではなかった。市が敷設した管に水は通い始めたが、各家庭の敷地内にある給水管の修理は追い付かず、30日時点の漏水情報は約3千件。そのため、給水車などを使った応急給水は5月6日、市管工事協同組合による漏水調査や修理は6月下旬まで続けられた。
一方、市全体の2割の取水量を誇り「水道局の心臓」と呼ばれる東区の健軍水源地でも6月下旬まで、異例の配水が続いた。断水エリアを解消するため通常とは異なる管路を使い、1・5倍もの圧力で水を送り続ける「綱渡り状態」。水運用課長補佐の細井敏幸(57)は「心臓に負荷を掛け、血管(水道管)が破れる可能性もあった」と振り返る。
仮配管だった築地・上村地区では今年10月、本格復旧が完了。水道局は同6月にまとめた震災復旧復興計画で、基幹管路の耐震適合率を地震前の74%から2019年には80%に引き上げる目標を掲げた。浮き彫りになった施設の早期復旧や耐震化、災害時対応力の強化の重要性を踏まえ、基本方針は「安心」「強靱[きょうじん]」「持続可能」を3本柱とした。
維持管理部長として災害対応の先頭に立った中島博文(61)は今春退職し、今は再任用の立場で職場を支えている。「地震を経験して、地下から湧き出る『生まれたての水』に恵まれた熊本の素晴らしさを改めて感じた。世界に誇れる地下水都市の生活を支える責務を、水道局は担っている」=文中敬称略(高橋俊啓)
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