【連鎖の衝撃 行政編⑦】 “南西重視”自衛隊フル稼働
4月25日夕、自衛隊員が操る重機から、行方不明者の発見を知らせるクラクションが鳴り響いた。4月16日の本震が招いた土砂崩れにのみ込まれ、5人が亡くなった南阿蘇村の高野台団地。直後に現地入りした自衛隊員らは余震に揺られ、雨にぬれながら10日間、黙々と捜索活動を続けた。
「初動では迅速に被災地のニーズに応えることができた」。防衛省制服組トップの河野克俊統合幕僚長は5月19日の記者会見で、そう胸を張った。
人命救助をはじめ、避難所での100万食近い炊き出しや、延べ約14万人が利用した入浴支援、170万食を超える物資輸送…。道路に積み上がった災害ごみの収集にも協力した。
南阿蘇中体育館に設けられた仮設浴場で、被災者たちは「大勢の隊員が支援に来てくれて本当にありがたい」と口々に感謝した。
今回の災害派遣は、東日本大震災に次ぐ規模で、約2万6千人に上った。このうち半数は、九州を管轄する陸自西部方面隊(総監部・熊本市)以外の部隊。北海道からも約4千人が送り込まれた。
大規模な移動になったが、「おおむねスムーズにいった」と統合幕僚監部の1人。海洋進出を強める中国を念頭に、北海道の部隊を九州に運ぶ訓練を2011年度から毎年実施しており、部隊の展開手順などが蓄積されていた。防衛面での“南西重視”が幸いにも生かされた形だ。
一方で、2月から弾道ミサイルの発射を繰り返していた北朝鮮と地震の“二正面”対応も迫られた。
海上自衛隊は、海上配備型迎撃ミサイル搭載のイージス艦を日本海に展開する一方、被災地支援で隊員や物資の輸送には、大型輸送艦やヘリ搭載型護衛艦をフル稼働させた。
海自幹部は「余力はあった」としながらも、北朝鮮のミサイル発射予告に備えるため2月に沖縄へ地対空誘導弾パトリオットを輸送したような事態になれば「やりくりは目いっぱいになったかもしれない」と振り返る。
北朝鮮対応を緩められない状況の中、日米は昨年4月に再改定した防衛協力指針(ガイドライン)に基づき連携。米軍は4月18日、日本の災害で初めて新型輸送機MV22オスプレイを投入。計5日間、熊本空港から南阿蘇村まで水や食料を運んだ。
安全性への理解が進んでいないオスプレイの登場に、被災地の賛否は割れた。「有効な手段があるのにちゅうちょすべきでない」という賛成意見に対し、「事故が重なったら支援どころではない」。
平和運動に携わる軍事評論家の前田哲男氏(77)は「自衛隊であれ米軍であれ、オスプレイでなく別の輸送ヘリで対応できた。災害に乗じ、国民の慣れを狙ったのではないか」と指摘する。
ところが地震発生当時、陸自の大型輸送ヘリ「CH47」は操縦系統の不具合が生じ、一斉点検中だった。それがオスプレイ投入につながったとの見方がある。中谷元・防衛相は5月17日の会見でCH47の点検とオスプレイ受け入れとは無関係との認識を示したものの、別の防衛省幹部は「輸送力は当初、不足していた。米軍の申し出は助かった」と明かす。(内田裕之、堀江利雅)
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