【連鎖の衝撃 経済編⑥】小売店もライフライン 水、食料…必需品を供給
熊本地震の前震から一夜明けた4月15日。地場スーパー、ロッキー(益城町)の砂光毅取締役商品部長(42)は、仕入れ先のメーカーや卸会社に次々と商品の注文を入れた。水、カップ麺、レトルトカレー、ごみ袋…。通常の半年分に上る大量注文だった。
電気やガス、水道が地震で止まったため、日常と違う需要が生まれ、食品や日用品の不足が予想された。早く動かなければ、他社に商品を押さえられてしまう。「在庫を抱えることになっても仕方ない」。砂光部長は思い切って先手を打った。
前震では店舗に大きな被害はなく、県内全21店で通常通り営業した。近隣のスーパーや大型商業施設が営業を見合わせたこともあり、大勢の客が詰め掛け、売り場はたちまち品薄状態になった。それでも翌週には大量注文した商品が届く手はずが整っていた。
ところが、16日未明の本震で状況は一変した。県内の多くのスーパーが被災し、臨時休業が相次いだ。
経済産業省によると、17日午前の時点で県内のスーパーは大手4社の57店のうち約70%が休業していた。開店したスーパーでも、駐車場での臨時販売や営業時間の短縮が目立った。
そんな状況の中、ロッキーは16日こそ全店を休業したものの、被害の少なかった店舗を中心に翌17日に13店、20日までに18店を再開した。被災した従業員も多く、余震も続いていたため、社内には慎重論もあったが、「水や食料を待っているお客さんのために」と開店を決断した。多くの店舗で連日、開店前から食料や日用品を買い求める客の長い列ができた。
保存食の次は総菜、続いて肉や野菜、調味料…。ライフラインの復旧状況に合わせ、需要は日に日に変わった。各店と本部は、客の要望や在庫情報を無料通信アプリのLINE(ライン)で共有しながら、商品の確保を急いだ。
しかし、大動脈の九州自動車道が通行止めとなり、県外からの物流が滞った。大量発注した商品は予定通りに届かなかった。一般道も軒並み交通渋滞に陥り、九州道が復旧する大型連休前まで影響が続いた。
コンビニも同じ悩みを抱えた。大手3社の店は被災から数日で大半が再開し、熊本へ優先的に商品が送られたが、熊本市中央区の店主(64)は「商品が売り切れ、次の入荷を待つ間に店を閉めることも多かった」と振り返る。
一方で国の救援物資は、九州道での特別輸送が認められ、続々と熊本へ運ばれていた。にもかかわらず、受け入れ態勢が整わず、被災者に十分届かない事態に陥った。
ロッキーの竹下慎一取締役開発部長(41)は「地域に物流網を持つ地元企業を活用するべきではなかったか」と政府の「プッシュ型」支援の方法に疑問を投げ掛ける。
「例えば、スーパーで物資を配ったらもっと早く行き渡ったと思う。営業を再開した後、『ありがとう』『助かる』と喜んでいただき、小売店が担っている役割を再認識した」
地震の経験を経て、生活必需品を供給するスーパーやコンビニのライフラインとしての役割があらためて見直されている。(小林義人)
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