【連鎖の衝撃 経済編⑤】復旧急いだ中小製造業 「仕事逃げる」危機感強く
![生産を再開し業務に取り組む従業員=13日、西原村のナカヤマ精密(高宗亮輔)](/sites/default/files/styles/crop_default/public/2023-04/IP160520TAN000244000_03.jpg?itok=S6Ah51kK)
「あの時は正直言って、終わったと思いましたよ」。ナカヤマ精密熊本工場(西原村)の坂田和文工場長(50)は、激震が襲った4月16日の本震直後の変わり果てた工場の様子をそう振り返る。
大阪市に本社を置く同社は、小惑星探査機に搭載されたエンジン・ノズル(噴射口)を手掛けるなど微細な金属加工を得意とし、国内で数社しか製造してない半導体製造装置部品などを受注している。
本震直後、熊本工場では高い精度が求められる工作機械が激しい揺れで50センチ~2メートルも移動。天井の断熱材が剥がれて落下し、空調設備がぶら下がった。
生産再開は全く見通せない状況だったが、「早く復旧してほしい」と取引先から要望が相次いだ。中山愼一社長(56)は「再開が遅れたら仕事が逃げてしまう。取引先をつなぎ留めないといけない」と焦燥感を募らせた。
急ピッチで進められた復旧作業の間も、状況報告を求める取引先からの電話が相次いだ。余震が続く中、社員や協力会社の従業員は休日返上で復旧作業に当たり、工場は本震後およそ10日で一部再開にこぎつけ、1カ月後には8割程度まで回復した。中山社長は「5月中にはフル生産に戻し、新規案件も受注したい」と前を向く。
ナカヤマ精密のように、熊本地震は県内の中小製造業に深刻な被害をもたらした。
県産業支援課が4月下旬、熊本市や菊陽町、合志市など22市町村に立地する企業320社に聞き取り調査したところ、仕事を失ってしまうという危機感から、大半の企業が復旧を急ぎ、何らかの形で操業を再開したという。
熊本南工業団地(嘉島町)に本社を置く生産設備メーカーのプレシードも、施設の損傷もそのままに本震から3日後の4月19日には平常の生産体制に戻した。県工業連合会理事も務める松本修一社長(63)は「受注した仕事の納期は守らないといけない。復旧が長引けば他県へ発注が逃げる恐れがある」と心配する。
地場企業では、復旧に労力を取られて営業体制が手薄になったり、自社の生産が元通りになっても取引先が被災して仕事が戻らなかったりするケースもあり、先行きは不透明だ。県産業支援課も「復旧費用が数千万円から数億円、年間売上高の1割程度に上るとみる企業もあり、資金繰りが悪化する恐れがある」と懸念する。
加えて、県内製造業出荷額の6割弱を占める大手誘致企業の中には、復旧が遅れているところもある。そうした企業は地場の中小企業と取引が多いが、復旧の遅れから他県へ発注が流れれば、県経済の“地盤沈下”につながりかねない。
松本社長は「熊本の製造業が全国に占める割合は決して大きくない。東京から離れた場所で起きた地震ということで、注目度が下がる恐れもある。仕事が継続して発注されるよう、行政も情報発信を強化してほしい」と訴える。(高宗亮輔、林田貴広)
RECOMMEND
あなたにおすすめPICK UP
注目コンテンツTHEMES
熊本地震-
熊本地震で被災の馬具櫓と石門周辺、石垣復旧案を承認 熊本城修復検討委
熊本日日新聞 -
大津町の国重文「江藤家住宅」、被災からの復旧工事が終了 落成式に町民ら100人出席
熊本日日新聞 -
消防団詰め所、全て復旧 南阿蘇村乙ケ瀬区の建て替え工事完了
熊本日日新聞 -
被災した古墳の復旧課題知って 熊本県教委など山鹿市で市民講座 来年3月まで前10回
熊本日日新聞 -
熊本城の復興願う音色響く 熊本県内7高の吹奏楽部員ら、熊本市の新市街でチャリティーコンサート
熊本日日新聞 -
国重文の熊本城・平櫓、石垣復旧工事始まる 高さ19メートル、加藤時代に築造
熊本日日新聞 -
熊本競輪場再建、新400メートルバンクや防災機能も 地域住民ら招き内覧会
熊本日日新聞 -
日本大腸肛門病学会 県に500万円寄付金 災害からの復旧復興に活用を
熊本日日新聞 -
能登の復興遅れ…被災者ら疲労濃く 地震から5カ月、信濃毎日に出向中の熊日記者ルポ
熊本日日新聞 -
住民70人、たすきつなぐ 西原村で12時間リレーマラソン
熊本日日新聞
STORY
連載・企画-
移動の足を考える
「すべての道は熊本に通じる」とは、蒲島郁夫前知事が熊本県内の道路整備に向けた意気込みを語る際に使ってきたフレーズ。地域高規格道路などの骨格的な道路や鉄道網は、地域・産業の活性化はもちろん大規模災害時の重要性も注目されています。連載企画「移動の足を考える」では、熊本県内の〝足〟の現在の姿を紹介し、未来の形を考えます。
-
学んで得する!お金の話「まね得」
お金に関する知識が生活防衛につながる時代。税金や年金、投資に新NISA、相続や保険などお金に関わる正しい知識を、ファイナンシャルプランナー(FP)の資格取得を目指す記者と一緒に楽しく学んでいきましょう。
※次回は「相続・贈与は難しい」前編。7月12日(金)に更新予定です。