【連鎖の衝撃 経済編⑤】復旧急いだ中小製造業 「仕事逃げる」危機感強く
「あの時は正直言って、終わったと思いましたよ」。ナカヤマ精密熊本工場(西原村)の坂田和文工場長(50)は、激震が襲った4月16日の本震直後の変わり果てた工場の様子をそう振り返る。
大阪市に本社を置く同社は、小惑星探査機に搭載されたエンジン・ノズル(噴射口)を手掛けるなど微細な金属加工を得意とし、国内で数社しか製造してない半導体製造装置部品などを受注している。
本震直後、熊本工場では高い精度が求められる工作機械が激しい揺れで50センチ~2メートルも移動。天井の断熱材が剥がれて落下し、空調設備がぶら下がった。
生産再開は全く見通せない状況だったが、「早く復旧してほしい」と取引先から要望が相次いだ。中山愼一社長(56)は「再開が遅れたら仕事が逃げてしまう。取引先をつなぎ留めないといけない」と焦燥感を募らせた。
急ピッチで進められた復旧作業の間も、状況報告を求める取引先からの電話が相次いだ。余震が続く中、社員や協力会社の従業員は休日返上で復旧作業に当たり、工場は本震後およそ10日で一部再開にこぎつけ、1カ月後には8割程度まで回復した。中山社長は「5月中にはフル生産に戻し、新規案件も受注したい」と前を向く。
ナカヤマ精密のように、熊本地震は県内の中小製造業に深刻な被害をもたらした。
県産業支援課が4月下旬、熊本市や菊陽町、合志市など22市町村に立地する企業320社に聞き取り調査したところ、仕事を失ってしまうという危機感から、大半の企業が復旧を急ぎ、何らかの形で操業を再開したという。
熊本南工業団地(嘉島町)に本社を置く生産設備メーカーのプレシードも、施設の損傷もそのままに本震から3日後の4月19日には平常の生産体制に戻した。県工業連合会理事も務める松本修一社長(63)は「受注した仕事の納期は守らないといけない。復旧が長引けば他県へ発注が逃げる恐れがある」と心配する。
地場企業では、復旧に労力を取られて営業体制が手薄になったり、自社の生産が元通りになっても取引先が被災して仕事が戻らなかったりするケースもあり、先行きは不透明だ。県産業支援課も「復旧費用が数千万円から数億円、年間売上高の1割程度に上るとみる企業もあり、資金繰りが悪化する恐れがある」と懸念する。
加えて、県内製造業出荷額の6割弱を占める大手誘致企業の中には、復旧が遅れているところもある。そうした企業は地場の中小企業と取引が多いが、復旧の遅れから他県へ発注が流れれば、県経済の“地盤沈下”につながりかねない。
松本社長は「熊本の製造業が全国に占める割合は決して大きくない。東京から離れた場所で起きた地震ということで、注目度が下がる恐れもある。仕事が継続して発注されるよう、行政も情報発信を強化してほしい」と訴える。(高宗亮輔、林田貴広)
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