【連鎖の衝撃 経済編⑪】農作物の生産基盤が大打撃 大規模化、機械化に課題
鉄骨が曲がり、天井のパネルが剥げ落ちた宇城市松橋町のJA熊本経済連の大型野菜選果場「第二園芸集送センター」。熊本地震から1カ月半がたった5月末。地震の傷痕も生々しい作業場では、十数人の職員がコンベヤーの上を流れる大量のミニトマトを手際良く選別していた。
職員の約半数は、県内外のJAから駆け付けた「支援隊」のメンバー。「自ら被災したJA熊本うきも含め、どこも大変な時に人を出してくれ、全国のJAに感謝している」。久保淳也所長は、安どの表情を浮かべた。
熊本はトマトやナスなど国内有数の野菜生産県。熊本地震では、熊本市や宇城市、益城町など大生産地の集荷施設や選果場などが大きな被害を受けた。
地震が起こった4~6月は、ちょうど春野菜の出荷のピークに重なり、熊本市では、100トン以上のナスが出荷できないまま廃棄された。被害額は4千万円以上に上る。
「このまま出荷ができない状態が長引けば農家の収入が無くなるだけでなく、東京など大消費地にも影響を与え、熊本が市場を失うことにもなりかねない」。過去に経験したことのない事態にJAグループ熊本は危機感を強め、対応を急いだ。
被災を免れた球磨地方などの選果場をフル活用する一方、県内全JAや全国農業協同組合中央会(JA全中)などに応援を要請。地震発生から1カ月の間に延べ2500人以上の支援隊が駆け付け、熊本市や宇城市など6選果場で手作業での出荷などを支えた。
各JAでは近年、国や県の補助を受け、最新のセンサーや装置を取り入れた大型選果施設の導入が進んでいるが、耐震化は重視されないまま。熊本地震でその弱点が浮き彫りになった形だ。
JA熊本経済連は「規模拡大や経営効率化に大型選果場は不可欠。ただ、耐震にはかなりの費用が伴う。果たしてコストに見合うのだろうか」と頭を悩ませる。
機械化を進めてきた畜産業界も、大きな“痛手”を負った。数万羽単位の給餌や給水施設が壊れた養鶏農家の中には大量処分を迫られたケースもある。県の推計では、県内における採卵鶏の処分は全体の約2割に相当する約54万羽に及んだ。
養豚でも各地で給餌機や飼料タンクが損壊、酪農では高価な搾乳機などが壊れた。畜産の場合、1戸当たりの設備投資が数千万~数億円になる農家も多く、二重ローンなどの問題も心配されている。
ただでさえ、農業離れが進む中、JA熊本中央会の梅田穰会長は「支援が遅れれば、再投資による負担が重荷となり、高齢農家の廃業ばかりか、若手後継農家の離農につながりかねない」と心理的な影響を懸念する。
県は、農業被害額を943億円(5月13日現在)と推計するが、地震の影響で痛手を負った農地の生産力が落ち、被害額は今後、さらに膨らむ可能性もある。全国6位の農業産出額(14年で3283億円)を誇る熊本農業に、熊本地震の影響がどこまで及ぶのか。県もまだ読み切れていない。
地域が大きな被害を受けた西原村で約200頭のあか牛を育てる男性(60)は「環太平洋連携協定(TPP)に備えて経営体力を蓄えるべき時に牛舎が倒壊した。近く28歳の次男に経営を譲るつもりだが、先行きが心配だ」と不安を募らせる。(猿渡将樹)
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