【連鎖の衝撃 経済編⑫】急増する失業給付相談 雇用安定が最優先課題
5月下旬、熊本市中央区のハローワーク熊本の失業給付の申請コーナーは、手続きを待つ人であふれていた。
熊本市に住む女性(32)は、同市近郊の大型ショッピングセンターが4月14日の熊本地震「前震」で被災し、勤務するテナントが休業に追い込まれた。その翌日、上司から「自宅待機」の指示を受け、それ以来、職場再開の見通しは立っていないという。
「今は失業給付が頼り。(再開を)待つしかありません」。この日、2時間待ちで手続きを済ませたこの女性はため息混じりに語った。
熊本労働局によると、熊本地震の発生後、県内のハローワークなどに寄せられた労働相談は約1万6千件(4月15日~5月29日)。1カ月半で例年の年間相談件数の1・8倍に上る。同局は、県外から応援の職員を入れて対応しているものの、数時間待ちの日も珍しくない。
労働相談のうち、圧倒的に多いのは失業給付に関する相談で、半数を占める。本来、失業給付は倒産や解雇時などに限られるが、熊本地震の特例措置として、離職していなくても年齢や被保険者期間などにより、30日から330日まで、離職前賃金の45~80%の給付を受けられる。5月29日までに921人が適用(給付)を受けた。
5月22日に来熊した塩崎恭久厚労相も「解雇を防ぐために全力を挙げる」と強調。政府は雇用維持を目的に、企業側にも雇用調整助成金の助成率アップなどの支援策を繰り出す。
求職者に対する求人数の割合を示す4月の有効求人倍率(季節調整値)は1・27倍と過去最高を更新、「堅調さを維持している」(熊本労働局)。今後も、建設業などを中心に復興需要が見込まれることから、徳田剛局長は「雇用環境の大幅な悪化は想定していない」と話す。
ただ、退職者を示す雇用保険の資格喪失件数は、熊本地震以降、5月末までの約1カ月で1万3千人を突破。同局幹部は「退職者の全てが地震絡みでないにせよ、大型連休以後に急増しており、注視していく必要がある」と警戒を怠らない。
東日本大震災では宮城、福島、岩手の3県で建設、技術職が人手不足に陥る一方、事務職は求職者が求人を大きく上回るなど、「ミスマッチ」が深刻化した。
当時、3県の雇用情勢を調査した三井住友信託銀行(旧中央三井信託銀行)の経済調査グループは、「被災地の自律的な復興には、投じた資金が被災地で循環する仕組みが必要」と指摘。ミスマッチの解消による雇用の安定を最優先課題に挙げる。
東日本大震災や新潟県中越地震に比べた熊本地震の特徴として、熊本市という地域経済の“心臓部”が被災した影響を重視する見方も少なくない。熊本学園大の荒井勝彦特任教授(労働経済学)も「全国的に人手不足感が強い中、若者を中心に有望な労働力の県外流出もあり得る。早く対策を立てなければ、熊本経済に深刻なダメージを与えかねない」と警鐘を鳴らす。(上田良志)
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