【連鎖の衝撃 経済編③】サプライチェーン寸断㊦ 受注減…代替生産の影響も
トヨタ系部品大手アイシン精機(愛知県刈谷市)は、子会社アイシン九州(熊本市南区城南町)の被災で寸断したサプライチェーン(部品供給網)を復旧するため、代替生産を愛知県のグループ工場や九州の協力会社で開始した。
アイシン九州のすぐ近くに立地する中央製作所熊本工場(熊本市南区城南町)にも4月16日の本震翌日、代替生産を求める連絡が入った。同社はアイシンからドア部品を仕入れ、別の部品を取り付けてトヨタ自動車九州(福岡県宮若市)に納めている。幸い熊本地震による被害は少なく、20日には代替生産を始めるための作業がピークを迎えた。
中央製作所の工場とアイシン九州の設備配置のレイアウトを同じサイズに縮小して切り貼りし、設備を移管できるかどうかをシミュレーション。設備の使用電力量も調査し、工場の一部をアイシン側に間貸しすることが決まった。
アイシン九州から生産設備が運び込まれ、程なくして代替生産が始まった。「1週間で始まるとは…」。中央製作所の小林大輔工場長(43)はトヨタグループの機動力に舌を巻いた。ただ、稼働が停止した半月分の売り上げが減少。従業員約20人分の休業補償も発生する見通しだ。
九州トリックス(荒尾市)はさらに、代替生産の影響が大きかった。高森町の自社工場が被災した上、アイシンからの発注も一部が止まった。本震から6日たった4月22日、伊藤幸弘社長(47)が、停電が続く自社工場に出向くと、自宅が被害を受けた一部の社員や、親会社トリックス(津市)から応援に来た社員がパイプ椅子を並べて寝泊まりしていた。
「少しだけですが、設備を動かせています」。復旧に奔走していた本田英隆工場長(42)がそう言って、伊藤社長を迎えた。電源は九州電力の発電機車の限られた電力しかなく、必要に応じてプレス機や溶接機につないで、ほそぼそと生産を再開していた。
めっき処理を担う本社の荒尾工場も含め、受注残はあったものの、見込んでいた発注が大幅に減った。アイシン九州の取引部品の一部が愛知県に移り、取引があったホンダ熊本製作所(大津町)も稼働停止したためだ。今期は約2割の売り上げ減が予想される。
ただ、再起に向けた希望はある。親会社のトリックスが地震で出社できなかった社員の休業補償に理解を示し、社員からの寄付を基に高森町への義援金も用意してくれた。伊藤社長は「新たな仕事を増やして、社員を必ず守る」と前を向く。
トヨタは完全復旧に5週間を要し、大規模な減産を経験した2011年の東日本大震災を教訓に、災害時に早期復旧を図る事業継続計画(BCP)を再構築した。約1万3千社のサプライチェーンの仕入れ状況などを確認できるデータベースを基に、有事には問題点を即座に洗い出す態勢を整えていた。
熊本地震では、供給が滞った部品を国内での代替生産や海外工場から調達。約3週間で完全再開にこぎつけた。
ただ、年間約230億円の売上高があるアイシン九州の生産の約半分が愛知県に一時的に移ったことで、熊本県内に約20社、九州では約70社ある取引先にも影響が出ている。
アイシン九州は8月下旬に本格的に生産を再開する方針。高橋寛社長(62)は「雇用を守り地震前と同じ生産量を確保して、地域を盛り上げたい」と力を込めた。(高宗亮輔、原大祐)
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