【連鎖の衝撃 経済編②】サプライチェーン寸断㊥ グループ挙げ〝復旧部隊〟
熊本地震の本震から6日後の4月22日午後、プレハブやテントが並ぶアイシン九州(熊本市南区城南町)のグラウンドに、高橋寛社長(62)が拡声器を持って現れた。従業員など約800人が集まる中、力強い声が響いた。「必ずこの場所で生産を再開する」
トヨタ自動車(愛知県豊田市)だけで1万3千社に及ぶとされるサプライチェーン(部品供給網)。熊本地震では、アイシン九州だけでなく、同社の協力会社も被災した。
「重要な工場なので状況を確認させてください」。本震から一夜明けた17日朝、オジックテクノロジーズ(熊本市)の石崎伸輔合志事業所課長(42)の携帯電話が鳴った。アイシン九州営業調達部の担当者からだった。
オジックは、アイシン製ドアチェックの製造工程に欠かせない、さび防止のめっき処理をすべて担っている。石崎課長はすぐに上司に連絡を取り、アイシン九州の担当者とトヨタの社員2人を合志市の事業所で出迎えた。
工場内は通気用ダクトがぶら下がり、処理中の部品が散乱していたものの、幸いにも築9年の建屋や設備に大きな損傷はなかった。「短期間で復旧できる」。誰もがそう確信していた。トヨタの社員らも安堵[あんど]の表情で事業所を後にした。
その直後、現場から連絡が入った。「屋上のクーリングタワーが大破しています」。めっき処理中の薬液の温度を調整する重要な設備だ。代替品は設置まで10日以上かかる。すぐにアイシン九州に連絡を入れると、心強い言葉が返ってきた。「こちらで、どうにかしましょう」
6日後の23日、オジックの合志事業所に三重県から新しいクーリングタワーが届いた。アイシンがグループを挙げて調達先を探し、設置に必要な施工会社や大型クレーンも愛知県で探してくれた。
そして24日、設備の修復も完了し、めっき後のドアチェックの品質確認が始まった。さらに25日にはめっき処理を再開。ちょうどトヨタが一部ラインの稼働を再開した日だった。「どうにか間に合ったな」。熊本市の本社で取引先への対応に追われていた金森秀一社長(61)は胸をなで下ろした。
一方、めっき工程に持ち込むドアチェックの金型を使った成型は、アイシン九州の被災で中断されていた。九州内の3社の工場による代替生産が検討され、本震2日後の18日には、アイシン九州から荒尾市の安高金属工業へ金型搬入が始まった。
その2日後、アイシン側の担当者が立ち会う中、金型を装着したプレス機で、品質確認のための生産が始まる。出荷できる水準かどうか、見極めた結果、「安定生産が見込める」と判断。21日から安高金属工業での代替生産が始まり、4月末まで24時間体制のフル稼働が続いた。
この間、アイシングループが1日最大約400人、トヨタも延べ約190人を派遣し、アイシン九州では連日、千人規模の“復旧部隊”が動員され、急ピッチでの復旧作業が進められた。
8月下旬には、代替生産のため他工場に移していた大型設備を戻し、本格的に生産を再開する。県民が危惧した県外への生産移転という事態は免れた。(原大祐、高宗亮輔)
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