【連鎖の衝撃 経済編⑧】熊本城と阿蘇で甚大な被害 観光客激減、回復に時間も
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4月16日の熊本地震本震発生から2日後。熊本城の観光施設「城彩苑」(熊本市中央区)は、水や食料が入った段ボールが山のように積まれ、救援物資の集積拠点に様変わりしていた。
「自衛隊車両が行き交い、まるで戦地のようだった」。同施設を運営する熊本城桜の馬場リテールの佐々博文常務(58)は、当時の様子を振り返る。
熊本地震で、国指定重要文化財13棟がすべて被災し、石垣も52カ所が被害を受けた熊本城。周辺はほとんど立ち入り禁止となり、にぎわいを見せるはずの大型連休中、城内から観光客の姿が消えた。
城彩苑は4月29日から何とか営業再開にこぎ着けたものの、5月8日までの連休中の人出は前年を約30%下回り、売り上げも40%近く減った。
「思っていたより人は来てくれたが、熊本城と城彩苑は主と従の関係。主となるお城が入園できなければ、ここもおのずと減らざるを得ない」。佐々常務は厳しい現実を受け止める。
熊本市によると、熊本城の2014年の入場者数は、訪日外国人客の増加を追い風に前年比1・8%増の163万人と2年連続で伸びていた。同市桜町やJR熊本駅で計画されている再開発でも、誘客のシンボルとして期待されていただけに関係者のショックは大きい。「安全が確保できたエリアから入園を再開したいが、いたる所で石垣が崩れ余震もやまない。まだ観光客を受け入れられる状況にはない」と熊本城総合事務所。復旧の見通しは立たない。
一方、熊本城とともに熊本観光の両翼を担ってきた阿蘇にも甚大な被害が広がった。阿蘇地域では、熊本方面からの主要アクセスである国道57号とJR豊肥線が南阿蘇村での大規模土砂崩れで寸断。南阿蘇へ通じる観光ルートにもなっていた県道熊本高森線俵山トンネル(バイパス)や、阿蘇山上への登山道路も通行止めとなった。さらに、国指定重要文化財の阿蘇神社楼門も全壊するなど受けたダメージは大きい。
阿蘇観光のターミナル的存在となっているJR阿蘇駅。国内客をはじめ、アジアや欧米など国際色豊かな観光客でにぎわっていた同駅も地震後、豊肥線の寸断で列車の発着はゼロに。全国有数の集客を誇っていた隣接する「道の駅阿蘇」の下城卓也マネジャー(47)は「例年なら連休になれば車が入りきれず、国道57号まで数珠つなぎだったのですが…」と客の激減ぶりにため息をつく。
JTB九州(福岡市)の担当者は、「阿蘇と熊本城という二つの観光資源は、外国人を含む県外客向けの団体ツアーや個人旅行にほとんど組み込まれていた。そこを売り出せなくなったダメージは九州全体の観光にとっても大きい」と、損失の深刻さを指摘する。
ここ数年、県内の観光産業は上り調子で推移してきた。宿泊客数、観光消費額ともに伸び続け、14年に観光客が県内で落としたお金は2918億円と前年より3・0%上昇。その“稼ぎ頭”が熊本城と阿蘇だった。
熊本観光を支える二本柱を失う事態に、地方経済総合研究所(熊本市)の小田正・調査研究部門長(59)は「交通インフラの損傷具合や、東日本大震災など過去の例からみて、熊本でも観光の回復には少なくとも5年はかかる」と予測。「その間、地域の関連産業を念頭に置いた息の長い支援態勢が不可欠だ」と話す。(宮崎達也、岡本幸浩)
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