【連鎖の衝撃 避難編⑧】 救出1カ月…「関連死」 けがや手術で体力消耗 健康への影響、長期に
「崩れた家から救助してもらい、手術も成功。助かったと思ったのに…」。「あの日」から1カ月余り。5月20日、嘉島町の本田澄子さん(85)は夫の金一さん(87)の遺影を見つめて涙ぐんだ。
熊本地震の本震が襲った4月16日。震度6強の揺れで家は全壊した。1階で寝ていた金一さんは、落ちてきた大きなはりで動けなくなった。別室から屋外に出た澄子さんが見守る中、約3時間半後に救出され、熊本市南区の病院へ搬送された。
両脚大腿[たい]部骨折の重傷。応急手術の後、ヘリで佐賀市の病院へ運ばれた。体の状態の改善を待ち、27日に行われた手術は11時間に及んだ。長女の甲斐祐子さん(59)は「こんな大手術に耐えて、お父さんはすごい」とたたえた。やがてリハビリも始まり、祐子さんは「楽そうな表情に見えた」という。
数日後、容体が急変した。呼吸が不規則となり人工呼吸器をつけたまま5月12日、息を引き取った。肺炎だった。肺炎は、細菌やウイルスなどが肺に入って炎症を起こす。担当医師は「普段なら耐えられたと思うが、けがや手術で体力を消耗して、細菌への抵抗力も相当弱っておられたのだろう。残念な結果になった」と声を落とす。
地震から約1カ月後の金一さんの死は、震災関連死の疑いがあるとされている。
◇ ◇
入院や長引く避難生活が被災者の体力低下を招き、関連死につながる可能性は大きい。復興庁によると、東日本大震災の震災関連死は2015年9月現在で3407人。発生から1カ月以内に1201人(35%)、1カ月目以降に2206人(65%)が亡くなった。4年目以降でも82人が亡くなるなど、地震による健康への影響は長期に及んでいる。
阪神大震災後、関連死研究を続ける神戸協同病院(神戸市)の上田耕蔵院長(65)は、4月末から5月にかけて熊本地震の被災地を視察。「高齢者や障害者、持病のある人など高リスクの人に疲れがたまっている。弱っている人をいち早く見つけ、再開した病院や介護サービスにつなげてほしい」と訴える。
◇ ◇
今後、生活拠点が仮設住宅を含めた在宅へと移行し、被災者の健康状況の変化が見えにくくなる懸念もある。東日本大震災では、関連死の半数近くが在宅で亡くなっている。
「在宅は避難所に比べて目が届きにくく、フォローが必要。自宅はほっとできる一方で、孤独や疲労も感じやすくなる」と上田院長。「仮設住宅にケアハウスを併設するなど福祉拠点を整備し、コミュニティーづくりなどを長期的に支援してほしい」と提言する。
「助かった命」をどう守るのか-。これ以上の関連死を出さないために、取り組む課題が山積している。(中村勝洋、林田賢一郎)
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