【連鎖の衝撃 避難編⑦】 “助かった命”失う 震災関連死20人 高齢者が9割、弱者に集中
「反応がない!」。熊本地震の本震が襲った4月16日未明、熊本市北区のスーパー駐車場に叫び声が響いた。車中で休んでいた女性(88)が突然、心肺停止の状態になった。
駆けつけた熊本大の女子学生(22)は看護師資格があった。しかし脈が取れず、肩をたたいても動かない。数人で車外に敷いた毛布に女性を寝かせ、懸命に心臓マッサージを続けた。自動体外式除細動器(AED)も使ったが、間に合わなかった。その後、病院に搬送され死亡を確認。心筋梗塞だった。
女性は1人暮らし。近くの住民らと駐車場に避難していた。親族の女性(57)は「本震の直後に電話したら、『避難したよ』と話していたので安心していた。信じられない」と嘆く。「血圧は少し高めだったけど、とても元気だったのに」。激震を逃れて“助かった命”を失い、無念の思いをかみしめる。
◇ ◇
この女性のケースを含め、県が「震災関連死」の疑いがあると発表したのは5月26日現在で20人。震災関連死は、家屋倒壊など直接的な原因ではなく、避難生活の疲れなど間接的な要因で命を落とすこととされ、阪神大震災で初めて認められた。
熊本地震での震災関連死の性別は、男性8人、女性12人。65歳以上の高齢者が18人で9割を占めた。本震発生の4月16日に亡くなった人が8人で最多。前震から10日後までの死亡が9割近くあった。
熊本地震と同じ内陸部で発生した新潟県中越地震では、死亡した68人のうち52人が関連死だった。阪神大震災では約6400人中、約900人に上った。
災害時の疾患に詳しい新潟大病院講師の榛沢[はんざわ]和彦医師(血管外科)によると、いずれの災害でも心不全など循環器系疾患が目立つという。ショックやストレスから交感神経が緊張し、血圧が上がるなどした結果、心臓や脳に負担がかかるためだ。榛沢医師は「非常時の生活は感情が高ぶり、リスクが大きくなる」と話す。
◇ ◇
熊本の関連死20人の中には車中泊をしていたケースも。こうした厳しい避難生活が心身へのストレスとなり、持病を悪化させたとみられる状況もあった。
持病があった氷川町の女性(73)の場合、遺族によると、避難所生活は難しく車中泊をせざるを得なかったという。4月20日、急性心不全で命を落とした。遺族は「配慮が必要な高齢者の居場所があったら…」と残念がる。
「災害弱者」とされる高齢者や障害者らの受け入れ先として、行政側は「福祉避難所」を想定。しかし当初、多くの自治体でその対応は遅れた。ある行政担当者は「人手やベッドが全く足りず、十分なケアは難しかった」と混乱した現場を振り返った。(清島理紗、林田賢一郎、田中祥三)
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