【連鎖の衝撃 避難編⑥】 突然の変調、胸が痛い 相次ぐエコノミークラス症候群患者 健康被害、高まるリスク
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ふくらはぎがはれ、胸が痛い-。突然の変調だった。4月21日午後、西原村小森の男性(68)は偶然訪れた錦ケ丘中(熊本市東区)にある救護所で、「エコノミークラス症候群の疑いがある」と告げられた。地震で自宅は住めなくなり、車中泊5日目。16日の本震以来、水をあまり飲んでいなかった。
点滴の後、熊本赤十字病院へ救急搬送された。大事には至らなかったものの「余震の続く家には帰れない。でも車中泊も怖い」。再発への不安から、同病院近くの月出小の避難所に身を寄せた。
同症候群は、主にふくらはぎでできた血の塊(血栓)が肺に詰まることで胸の痛みがあり、時には心停止につながる。防止には小まめな水分補給と、適度な運動で血管を動かすことが効果的という。
男性は炊き出し生活を送りながら毎日3千歩以上歩いていたが、飲み水は1日に約500ミリリットルだけ。「体は動かしていたし、足も高くして寝るようにしていた。まさか自分がなるなんて」
県健康づくり推進課によると5月24日午後4時現在、入院が必要な同症候群の患者は51人に上る。4月18日朝、車中泊をしていた熊本市の51歳の女性が死亡した。県内初のケースだった。
患者には高齢の女性が目立つ。男女別でみると男性12人、女性39人。65歳以上は33人。65歳以上の女性は26人で半数以上を占めている。トイレを気にし、水分を控える女性が多いためとみられる。
◇ ◇
狭い車中泊、眠れない避難所-。同症候群に限らず、被災者は多くの病気の危険にさらされている。危険性が高いのは、脳卒中や心筋梗塞など循環器系疾患だ。ストレスによる高血圧や偏った食事などが要因とされる。
災害時に増える疾患を予防しようと、県内外の医師や県、厚生労働省などは4月下旬、関連疾患を防ぐプロジェクトチームを立ち上げた。車中泊が多いグランメッセ熊本(益城町)でエコノミークラス症候群の集中検査を実施。予防効果のある弾性ストッキングも配布した。脳卒中や心筋梗塞の防止のため、減塩や運動を促すチラシの配布も始めている。
◇ ◇
県内には、5月下旬の今も約9千人の避難者がいる。今後、食中毒や熱中症、感染症の発生などが懸念される。4月下旬、南阿蘇村の避難所で、多数の被災者が下痢や嘔吐[おうと]、発熱の症状を訴えた。5月上旬に熊本市の避難所では、おにぎりを原因とする集団食中毒が発生した。
長引く避難生活で、健康被害へのリスクが徐々に高まる。同プロジェクト代表の掃本誠治・熊本大病院循環器内科診療科長は「急性疾患の多くは禁煙や適度な運動など、予防は共通する。もう1人の犠牲も出してはいけない」と力を込める。(文・写真 林田賢一郎)
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