【連鎖の衝撃 避難編⑤】 余震怖い、今も車中泊 心身に負担、にじむ疲労
「家の中は怖い」。5月23日夕、益城町のグランメッセ熊本の駐車場。同町のパート従業員の中村沙也加さん(25)は、車中泊での生活がもう1カ月以上になる。
地震で自宅アパートは鉄骨がむき出しとなり、階段も傾いた。応急危険度判定では「危険」を示す赤紙。「地震以来、子どもたちは怖くて建物に入ることができなくなった」
軽乗用車の車内で夫(24)と長男(4)、長女(2)とともに眠る日々が続き、5月上旬、県外の支援企業からトレーラーコンテナの提供を受けた。期限は6月末まで。「足を伸ばせてありがたい。ただ夏場をどう過ごすのか、考えただけで具合が悪くなる」
熊本地震で、避難者は一時18万人を超えたが、5月下旬の今も約9千人が避難生活を送る。さらに避難所に行かず、駐車場での車中泊や、自宅敷地でテント生活などを送る「在宅避難」などの避難者も続出し、行政も正確な実態をつかみきれない状況だ。
◇ ◇
車中泊を続ける大きな理由には「余震への不安」がある。1カ月以上、子ども2人と車中泊を続けた熊本市北区のパート女性(32)の場合、夜になると、激しい揺れを思い出して動悸[どうき]が激しくなり、吐き気と頭痛がしたという。屋内にはいられない状態だった。
車中泊の理由などを聞いた民間調査で、最も多かった回答は「余震への不安」で6割近くを占めた。車中泊をやめるために必要なことは「精神的な不安の解消」が最多。このほかの理由では「家の損傷」が多かったが、子どもやペットの存在、プライバシーなどを挙げる声もあった。
調査は4月下旬から5月上旬にかけ、熊本市の民間グループ「こころをつなぐ『よか隊ネット』」(佐藤彩己子[あつこ]代表)が実施。同市や益城町などの駐車場で131人から聞き取った。佐藤代表(64)=同市東区=は「被災者にはさまざまな不安がある。被災者総合支援センターを設置して、長期的な相談支援体制が必要だ。行政だけではなく、市民組織の協力も欠かせない」と提言する。
◇ ◇
不自由な車中泊で心身に不調を来す人もいる。よか隊ネットの調査でも、「眠れない」「肩と腰が痛い」「エコノミークラス症候群が心配」など健康への不安の声が聞かれた。
車中泊を今も続ける益城町の主婦(36)は5月中旬、突然激しい頭痛や目まい、吐き気に襲われた。病院を受診して症状は治まったが、原因ははっきり分からない。夜になると狭い軽乗用車のシートを倒し、夫(39)と長男(7)と眠る。体にじわりと負担がある。「ゆっくり眠れない。でも慣れるしかない」
余震への不安、健康への心配、そして見えない将来…。避難者たちの背中に、長引く車中泊生活の疲れがにじんでいる。(林田賢一郎、清島理紗、森本修代)
RECOMMEND
あなたにおすすめPICK UP
注目コンテンツTHEMES
熊本地震-
熊本地震で被災の馬具櫓と石門周辺、石垣復旧案を承認 熊本城修復検討委
熊本日日新聞 -
大津町の国重文「江藤家住宅」、被災からの復旧工事が終了 落成式に町民ら100人出席
熊本日日新聞 -
消防団詰め所、全て復旧 南阿蘇村乙ケ瀬区の建て替え工事完了
熊本日日新聞 -
被災した古墳の復旧課題知って 熊本県教委など山鹿市で市民講座 来年3月まで前10回
熊本日日新聞 -
熊本城の復興願う音色響く 熊本県内7高の吹奏楽部員ら、熊本市の新市街でチャリティーコンサート
熊本日日新聞 -
国重文の熊本城・平櫓、石垣復旧工事始まる 高さ19メートル、加藤時代に築造
熊本日日新聞 -
熊本競輪場再建、新400メートルバンクや防災機能も 地域住民ら招き内覧会
熊本日日新聞 -
日本大腸肛門病学会 県に500万円寄付金 災害からの復旧復興に活用を
熊本日日新聞 -
能登の復興遅れ…被災者ら疲労濃く 地震から5カ月、信濃毎日に出向中の熊日記者ルポ
熊本日日新聞 -
住民70人、たすきつなぐ 西原村で12時間リレーマラソン
熊本日日新聞
STORY
連載・企画-
移動の足を考える
「すべての道は熊本に通じる」とは、蒲島郁夫前知事が熊本県内の道路整備に向けた意気込みを語る際に使ってきたフレーズ。地域高規格道路などの骨格的な道路や鉄道網は、地域・産業の活性化はもちろん大規模災害時の重要性も注目されています。連載企画「移動の足を考える」では、熊本県内の〝足〟の現在の姿を紹介し、未来の形を考えます。
-
学んで得する!お金の話「まね得」
お金に関する知識が生活防衛につながる時代。税金や年金、投資に新NISA、相続や保険などお金に関わる正しい知識を、ファイナンシャルプランナー(FP)の資格取得を目指す記者と一緒に楽しく学んでいきましょう。
※次回は「相続・贈与は難しい」前編。7月12日(金)に更新予定です。