【連鎖の衝撃 避難編④】 苦渋の選択、村外へ 「集落に愛着あるが…」
![ブルーシートで覆った損壊家屋や土砂崩れの危険がある山を見上げる立野地区の住民=17日、南阿蘇村(藤山裕作)](/sites/default/files/styles/crop_default/public/2023-04/IP160523TAN000163000_03.jpg?itok=rHvnHBJA)
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激しい雨が校庭をたたきつけていた。熊本地震後、南阿蘇村立野地区の住民ら約150人が身を寄せた旧立野小。4月21日午前9時半ごろ、朝食のパンを食べ終えた被災者に、警察と消防が再避難を指示した。
「土砂崩れの危険がある。大津町の避難所に移ってほしい」
校庭で車中泊していた郷英俊さん(78)と禮子さん(69)の夫婦は車を動かした。「急いで逃げなん」。阿蘇大橋をのみ込んだ土砂崩れの恐怖が、脳裏をかすめた。「でも、本当に立野小が危険なのか」。信じられない思いで、大津町へとアクセルを踏んだ。
旧立野小は、立野地区中心部の住宅街と国道57号を挟んだ場所にある。斜面からは約600メートル離れている。立野地区が被災した2012年7月の九州北部豪雨でも避難所に。その後、大雨が降る前の明るいうちに避難する予防的避難にも活用された。安全だったはずなのに、地震は危険な場所に一変させた。
◇ ◇
立野地区北側の急斜面は、地震による土砂崩れで茶色の筋が幾重にも走る。火山灰土壌は亀裂が入り、雨水を含むともろい。余震も止まらない。国道57号が寸断され、阿蘇大橋はなくなった。二次災害を防ぐには再避難が必要だが、村中心部には行けない。「村外」は苦渋の選択だった。
仮設住宅も大津町に建設する。村外生活の長期化は避けられない。国道や橋、水道の復旧も見通しは立たない。慣れ親しんだ立野地区を離れる決断をした人もいる。大津町や熊本市にアパートを見つけたり、新たに土地を買ったり…。
「愛着はあるが、もう耐えられない」。立野区の元役員、久保田将さん(74)は漏らした。村内の親戚宅に避難中だが、戻る予定はない。地元の地形に詳しく、危険性も知って住んでいたつもりだ。でも、今回の地震は違う。「田んぼも墓も壊れた。裏山には大きな石がいくつも転がっている」
古里にこだわる住民もいる。3代続くプロパンガス販売店の松野紳一さん(58)は「立野に帰る住民がいる限りガスが必要。これまで支えてくれた地域に恩返ししたい」。営業再開を目指すが、顧客約300軒のうち、約8割が不在。「安心して暮らせる日が来るのだろうか」。不安は尽きない。
◇ ◇
「掃除の分担は、細かく決めすぎない方がいい」。5月19日夜、避難先のホンダ熊本製作所で地区住民が立ち上げた「自治組織」の会合があった。住民代表や区長ら約20人が、避難所暮らしを乗り切ろうと知恵を絞る。
村は22日、立野地区の約350世帯、860人全てを対象に、自宅損壊の有無を問わずに仮設住宅入居を認めると発表した。地区存亡の危機を乗り越えるための特例だ。
それでも、梅雨は目前に迫る。再び土砂崩れが起きたら、住民の「立野離れ」は加速しかねない。自治組織代表を務める丸野健雄さん(72)は「村外の避難先や仮設住宅にいながら、コミュニティーを維持できるのか不安だ」と漏らす。(藤山裕作、九重陽平)
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