【連鎖の衝撃 生命編⑩】自宅倒壊 母の返事なく がれきの中 懸命のSOS
<家が潰[つぶ]れた 助けて お母さん返事しない>
本震が発生した4月16日未明。南阿蘇村立野の自宅が倒壊し、高田一美[いちみ]さん(62)と共に閉じ込められた三女尚子さん(31)は、スマートフォンの無料通信アプリ「LINE(ライン)」を使って、友人らに“SOS”を送り続けた。地震の影響で、電話は圏外。送信したメッセージに「既読」の表示が浮かぶと、少しだけ不安が薄らいだ。
◇ ◇
高田さん母娘が住む立野は、国道57号から北側に入った山裾に位置し、斜面に家が立ち並ぶ。今回の地震で土砂崩れも発生し、地区では3人が犠牲となった。生前、一美さんは菊陽町の福祉施設に勤務。尚子さんと9歳になる愛犬「うるる」と一緒に暮らしていた。
前震が起きた14日夜、2人は、近くに住む一美さんの実家の倉庫に毛布を敷いて一夜を過ごしたが、翌15日夜に帰宅。落ち着かない愛犬のことを考えてのことだった。
2人は1階の居間で、こたつを挟んで眠りについた。尚子さんが南の窓側、一美さんが北の壁側。怖くて眠れずにいた尚子さんと対照的に、一美さんは熟睡していた。
そして16日午前1時25分。すさまじい揺れが襲う。ごう音とともに屋根が崩れ、2人はがれきに埋もれた。
尚子さんは、倒れたガラス戸とこたつの間にできたわずかなスペースで圧迫から逃れた。握りしめていたスマートフォンで110番、119番通報を繰り返すが、通話は度々、途切れた。何度呼び掛けても、母からの反応はなかった。
電池の残量が20%を切ろうとしていた時、「ポロン」と着信音が鳴った。「大丈夫?」。友人から届いたメッセージだった。ほとんど身動きはできなかったが、通信状態が良くなる場所や角度を探りながら、友人との“会話”を続けた。
離れて暮らす父秀隆さん(63)=菊陽町=にも連絡を試みた。通信状態が悪く、電話はすぐに切れたが、間もなく父からの着信が3度続けて表示された。「SOSに気付いてくれている」ことを確信した。
立野での被害を知った秀隆さんは、すぐに菊陽町の自宅を飛び出した。
「一美、尚子」。午前2時半すぎ。現場に到着した秀隆さんは、押しつぶされた居間部分に向かって2人の名前を叫んだ。「お父さん」。がれきの中から尚子さんの声が漏れた。地元消防団員らは懸命にがれきを撤去し、約1時間半後、尚子さんが救い出された。さらに愛犬も救出。現場に「一美さんも…」との期待が広がった。しかし、昼前、一美さんは変わり果てた姿で発見された。
◇ ◇
土砂災害の恐れがある立野からは今、ほとんど人けが消えた。道路は寸断され、地区は存続の危機にある。尚子さんも地域を離れ、秀隆さん宅に身を寄せる。
明るく、誰からも慕われた一美さん。「『うるる』も母が残してくれたような気がして…。しっかり生きていきます」。愛犬を抱いた尚子さんは、遺影に誓った。(九重陽平、上田良志)
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