【連鎖の衝撃 生命編⑨】住宅倒壊 死に直面 友と地域に救われた命
がれきとなった住宅や亀裂の入った大地が、揺れのすさまじさを物語る。布田川断層帯の真上に位置し、震度7に襲われた西原村小森の大切畑[おおぎりはた]地区。自らも家を失った建築業西本豊さん(60)は、ダンプを運転し、地区の片付けに汗を流していた。
「俺は一度死んだ身。助けてもらい、拾った命とありがたく思うとります」。あの夜のことを思い出すと、今でも胸が熱くなる。
◇ ◇
本震が発生した4月16日午前1時25分。築80年の西本さん宅は激しい揺れで1階部分が倒壊した。妻の公重[きみえ]さん(58)は、何とかはい出すことができたが、豊さんと義父母はがれきに埋まった。
幅45センチの梁[はり]に挟まれた豊さんは身動きできなくなっていた。何とか動いた手でスマートフォンを公重さんに渡し、離れて暮らす3人の娘に救助を求めるよう頼んだ。
梁が頭を圧迫する。「もう俺はダメだ。娘たちを頼む」。外から励ましていた公重さんに語りかけた。1時間近くが経過したころだろうか。薄れゆく意識の中で「大丈夫かー」という呼び掛けが耳に入った。長年の友人、西隆志さん(47)=熊本市東区=の声に似ていた。
「ついにお迎えが来たのか…」。あり得ない声に死を覚悟した瞬間、強く肩が揺すられた。暗闇の中、スマートフォンの明かりに照らし出された西さんの顔があった。
「何でおまえがおっとや」。西さんを見た途端、正気を取り戻した。「絶対に出してやるけん」。西さんは、約20キロ離れた自宅から西原村に駆け付けたのだ。
「地震直後、胸騒ぎがした」と西さん。スマートフォンで安否を尋ねるメッセージを送った。返信を待つ。来た、よかった、と思った時だった。「主人を助けて」。その内容に手が震えた。返信したのは公重さんだった。
「メールを見て一刻も早く助け出さなければ、という思いで無我夢中でした」。集落の入り口で道路が寸断され、運転を諦めて徒歩で向かった西さんは「命が助かって本当に良かった」と振り返る。
そのころ、同地区ではあちこちで住宅が崩れ、住民総出の救出活動が繰り広げられていた。農業山本栄一さん(65)も自宅が全壊したが、隣家の西本さん方の異変に気付いた。「放ってはおけない」。病気がちの山本さんだったが、車用のジャッキを手に西さんに続いた。
ガラガラガラッ。大きな余震でがれきが崩れる。恐怖を押し殺し、2人は慎重にジャッキで梁を持ち上げ、豊さんを引っ張り出した。午前3時半ごろ、義父母の救助に移ろうとしていた時、ようやくレスキュー隊が到着。豊さんは打撲、義母も骨折を負ったが、命に別条はなかった。
◇ ◇
26世帯約80人が暮らす大切畑地区では今、住民の手による“復興”が始まっている。西本さんも、中心メンバーの1人だ。
「この集落で犠牲がゼロだったのは奇跡的。友をはじめ、地域こそが命の恩人。必ず恩返しをせなん」(横山千尋)
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