【連鎖の衝撃 メディア編④】ライフライン情報 生活に直結「命つないだ」
「みんな奪い合うように新聞を手に取った」
熊本市南区の大学生、木下美央さん(21)は4月16日の本震直後、近くの田迎西小に避難した。体育館や教室に最大約2千人がひしめき、身動きすらとれない状況だった。
1週間滞在した中で、真っ先に考えなければならなかったのは食料と水の確保だった。支援物資は限られ、当初は全員に行き渡らなかった。けれども、どこに行けば手に入るのかが分からない。有力な情報源の一つになったのが新聞だった。
熊本日日新聞社は、4月15日の朝刊から各地の避難所に新聞を無料で配布。7月23日までに累計45万4642部を配り、現在も続けている。
紙面には前震の翌日から「生活関連情報」を集めて掲載。内容は避難所、食料や物資の配布場所、給水情報、営業中の店舗名や銭湯名などで、ピーク時の情報量は1ページ以上に膨らんだ。分かりやすいように一時は最終面に掲載した。
木下さんは、この欄で営業中の店舗を確認し、宇土市の避難所にいる両親にも紙面を写真で転送した。「インターネット上でも多様な情報を得られたが、同時に不確かな情報も流れていた。信頼できるメディアの情報が命をつないでくれた」と振り返る。
熊日はこうした紙面の一部を、ネットのホームページ「くまにちコム」でも公開。利用者は1週間で地震前の16倍の約80万人に上った。
このほか会員制交流サイト(SNS)のフェイスブックでも「熊日ライフライン速報」として情報提供。「○○で道路陥没」「水道水に濁り。飲まないで」などの緊急情報を流した。「患者のための食料や水が不足している」という医療機関からの訴えに対しては、フェイスブックを通じて広く協力を呼び掛けた。
県内のテレビ各社も6月まで画面にL字形の「災害情報」の帯を設け、ライフラインや生活支援に関する情報を常時流した。
各ラジオ局も特別編成で対応。熊本市の「熊本シティエフエム」は前震直後の4月14日から同30日まで、24時間態勢の生放送で地震情報を伝えた。正確な情報を集めるために、スタッフはスーパーやコインランドリーなどを回って開店状況を確認。熊日の生活関連情報なども参考にした。リスナーからの相談に対し、別のリスナーの返事を紹介するなどして双方向のメディア機能も発揮。熊本市はその間、県内で初めて同ラジオを「臨時災害放送局」として活用した。
益城町、甲佐町、御船町もそれぞれ臨時災害放送局を開設。現在も各役場から定期的に災害情報や生活支援情報を伝えている。(馬場正広、西國祥太)
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