【連鎖の衝撃 メディア編③】SNSの威力 「個人発」の声、共感呼ぶ
「水出ません」「店に近くの住民ら20人ほど避難しています」
熊本市中央区の日本料理店経営、奥村賢さん(45)は本震が発生した4月16日、身の回りの被害状況を会員制交流サイト「フェイスブック(FB)」に投稿した。インターネットでつながる、全国の友人や仕事仲間に向けてのSOSだった。
効果はてきめんだった。翌17日から水や缶詰、おむつなどが続々と届き、店の一角はたちまち支援物資で埋まった。今度は「行政の手が届かないところに届けます」と投稿。寄せられた情報を基に、団地の集会所や高齢宅へ配った。「知らない人からも物資が送られてきた。人のつながりがありがたかった」と奥村さんは振り返る。
顔の見える個人が発する声は、拡散されても共感を呼びやすい。東日本大震災で、情報発信力が注目された会員制交流サイト(SNS)は、熊本地震でも力を発揮。被災者はFBや短文投稿サイト「ツイッター」、無料通話アプリ「LINE(ライン)」で窮状を伝え合い、開いている店や水が手に入る場所などを教え合った。
行政も、情報収集にSNSを活用した。多数の漏水被害があった熊本市では、ツイッターで7万人超のフォロワー(読者)を持つ大西一史市長が「漏水している所を教えて」と呼び掛けた。6月中に応急工事を終えた約3600カ所の7割は市民の通報で特定できたと言い、「普段からフォロワーを増やしておけば、有事の際役立つ」と力説する。
国の研究機関も支援の一環として、被災地で飛び交うツイートを分析し、話題に上っている事項や場所など絞り込むことができるシステム「DISAANA(ディサーナ)」を公開。「個人発」の声をどう生かしていくかが、災害支援の新たな課題となっている。
ネット上には、真偽不明の情報も多く存在する。SNSを利用する際には、高度な情報活用能力が不可欠だ。しかし、ネットの海から情報を探し出し、その真偽、拡散されるうちに生じる現実との“時差”や齟齬[そご]を見抜くのは容易ではない。崇城大の和泉信生助教(情報工学)は「情報を集約・精査して一覧できるようにすることが、被災者のためには大切」と話す。
和泉助教は今回、研究室の学生や県外在住のOBらと給水や断水、漏水などの報告をネットで集めて地図にした「水出るアプリ」を制作した。それがテレビで取り上げられると10倍以上も情報が集まるようになり、精度を上げることができたという。
SNS以外にも、被災者はさまざまなメディアに触れている。「複数のメディアが連携することで、被災者にとってより有用な情報を提供できるようになるのではないか」と和泉助教は指摘する。(石本智、植木泰士)
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