「三四郎」もてあそんでいる! 女の怖さ感じた <アイラヴ漱石先生朗読館=2023年1月22日放送>
#読むラジオおはようございます。本田みずえです。夏目漱石の作品について理解を深めたい、漱石について詳しく知りたい、そんな人たちに向けて書かれたガイドブック「アイラヴ漱石先生」が、令和4年4月に発刊されました。夏目漱石は、第五高等学校の英語教師として、生まれ故郷以外の土地では最も長い4年3カ月を熊本で過ごしました。この番組では、そんな漱石先生の文学の面白さを、熊本の高校生の皆さんと探究していきます。今日は、東稜高校2年生の水野里咲さん、岩﨑仁恋さんと、漱石の長編小説「三四郎」の魅力を探っていきましょう。解説は、元高校の国語の先生でした西口裕美子さんです。この番組は、NPO法人くまもと漱石文化振興会、熊本大学文学部附属漱石八雲教育研究センターの協力でお送りします。
<朗読>「三四郎」
うとうととして眼(め)が覚(さ)めると、女は何時(いつ)の間(ま)にか、隣の爺(じい)さんと話を始めている。この爺さんは慥(たし)かに前の前の駅から乗った田舎者(いなかもの)である。発車間際(まぎわ)に頓狂(とんきょう)な声を出して、駆け込んで来て、いきなり肌を脱いだと思ったら脊中(せなか)に御灸(おきゅう)の痕(あと)が一杯あったので、三四郎(さんしろう)の記憶に残っている。爺さんが汗を拭(ふ)いて、肌を入れて、女の隣に腰を懸けたまでよく注意して見ていた位である。
女とは京都からの相乗(あいのり)である。乗った時から三四郎の眼に着いた。第一色が黒い。三四郎は九州から山陽線に移って、段々京大阪へ近付いてくるうちに、女の色が次第に白くなるので何時の間にか故郷を遠のくような憐れを感じていた。それでこの女が車室に這入って来た時は、何となく異性の味方を得た心持がした。この女の色は実際九州色(いろ)であった。
<本田>朗読は岩﨑仁恋さんでした。それでは今日は東稜高校2年生の水野里咲さん、岩﨑仁恋さんと、漱石の長編小説「三四郎」の魅力を探っていきましょう。まず作品の解説を元高校の国語の先生でした西口裕美子さんにお願いします。
<西口>漱石が作家としてデビューしてから3年後、新聞社に入ってからは2年後の明治41年9月1日から12月29日まで、117回にわたって朝日新聞に掲載されたのが「三四郎」です。タイトルはこの本の主人公・小川三四郎、23歳の名前です。彼は熊本の第五高等学校、今の熊本大学を卒業し、東京帝国大学、今の東京大学に入学するために上京します。三四郎はすごく真面目で、うぶで、野暮で、まっさらな人物。上京後、彼には3つの世界ができたということを感じます。1つ目は、愛情たっぷりの母親や幼馴染のお光さんというような人たちが住む、安全で優しい過去の世界。2つ目は、広田先生や同郷の先輩・野々宮らの住むアカデミックな学問の世界。3つ目は、里見美禰子のような美しい女性の住む、春のような華やかな世界。田舎から出てきた三四郎は、大都会東京で大いに刺激を受けます。出会いは、ときめきや迷いを彼に与えます。そして悩みます。「三四郎」は、「それから」「門」へと続く前期三部作の主人公の中では一番若く、高校生の皆さんと一番近い存在なのです。だからこそ、共感するところもたくさんあると思います。41歳だった漱石が、登場人物の口を借りて、当時の日本の在り方への批判をしているところもあります。キーワードはストレイシープ、迷える羊。その言葉をさて、どう読み取りますか?
<本田>では、ここからは3人で作品の魅力や感想についてお話ししていただきましょう。
<西口>岩崎さん、水野さん、今日はよろしくお願いします。
<高校生>よろしくお願いします。
<西口>お二人は、今回この番組に出るにあたって、初めて「三四郎」を読みましたか?
<高校生>はい、そうです。
<西口>その時の初読の感想を簡単に話してください。水野さん。
<水野>はい。私は夏目漱石の作品を「三四郎」で初めて読んだんですけど、周りは意見をしっかり持っているのに対して、三四郎はその面でいうと、田舎から出てきたばかりということもあって、ちょっと未熟な面があるんですけど、だからこそ一番人間味を感じる、共感できる部分がすごく多くて、主人公に感情移入しながら読めるような作品だなと思いました。
<西口>そうね。この作品はそれが魅力なのかもね。岩﨑さんはどう思った? 一番最初に読んだ時の感想。
<岩﨑>私も普段も読書すごい好きで本を読んだりするんですけど、夏目漱石さんとか有名な方々の作品を読んだことはあまりなかったので、ちょっと難しいと感じたところもあったんですけど、表現とかで「九州色」だったりとか、夏目漱石さん独自の表現とかがいっぱいあって、すごい面白いなって思いました。
<西口>印象に残ったシーンをちょっと話してもらおうか。岩﨑さんからいこうか。
<岩﨑>私の印象的だったシーンは、三四郎が列車の窓から空になった弁当箱の、箱を放り投げたところですね。
<西口>ありえない?
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