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「琴のそら音」音楽の話? ホラー? 最後はハッピーエンド <アイラヴ漱石先生朗読館=2023年1月15日放送>

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熊本日日新聞 2023年1月15日 00:00
「アイラヴ漱石先生 漱石探求ガイドブック」NPO法人くまもと漱石文化振興会、熊本大学文学部附属漱石・八雲教育研究センター編 集広舎1650円 191ページ
「アイラヴ漱石先生 漱石探求ガイドブック」NPO法人くまもと漱石文化振興会、熊本大学文学部附属漱石・八雲教育研究センター編 集広舎1650円 191ページ

おはようございます。本田みずえです。夏目漱石の作品について理解を深めたい、漱石について詳しく知りたい、そんな人たちに向けて書かれたガイドブック、アイラヴ漱石先生が、令和4年4月に発刊されました。夏目漱石は、第五高等学校の英語教師として、生まれ故郷以外の土地では最も長い4年3カ月を熊本で過ごしました。この番組では、そんな漱石先生の文学の面白さを熊本の高校生の皆さんと探究していきます。今日は、熊本マリスト学園高校1年生の井上さん、倉本瞳さんと、漱石の短編小説、琴のそら音の魅力を探っていきましょう。解説は、元高校の国語の先生でした西口裕美子さんです。この番組は、NPO法人くまもと漱石文化振興会、熊本大学文学部附属漱石八雲教育研究センターの協力でお送りします。

<朗読>「琴のそら音」

「君はあいかわらず勉強で結構だ、その読みかけてある本は何かね。ノートなどを入れて大分叮嚀(ていねい)に調べているじゃないか」「これか、なにこれは幽霊の本さ」と津田君は頗(すこぶ)る平気な顔をしている。

この忙しい世の中に流行(はや)りもせぬ幽霊の書物を澄(す)まして愛読するなどというのは、呑気(のんき)を通り越して贅沢(ぜいたく)の沙汰だと思う。

「いや、それについて不思議な話があるんだがね、日本から手紙の届かない先に細君がちゃんと亭主の所へ行っているんだ」「行ってるとは?」「逢(あ)いに行ってるんだ」「どうして?」「どうしてって、逢いに行ったのさ」「逢いに行くにも何にも当人死んでるんじゃないか」「死んで逢いに行ったのさ」

法学士の知らぬ間(ま)に心理学者の方では幽霊を再興しているなと思うと幽霊もいよいよ馬鹿に出来なくなる。

<本田>それでは今日は、熊本マリスト学園高校1年生の井上さん、倉本瞳さんと漱石の短編小説、琴のそら音の魅力を探っていきましょう。まず作品の解説を、元高校の国語の先生でした西口裕美子さんにお願いします。

<西口>漱石は1867年、慶応3年、旧歴の1月5日、新歴でいえば2月9日に江戸で生まれました。その翌年から元号は明治に。明治は45年の4月29日まで続きますから、それまで明治の年号と漱石の年齢は同じです。明治1年が1歳、45年が45歳ということになります。明治36年に漱石はイギリスから帰国、そして38年の1月1日から吾輩は猫であるを翌年の8月1日にかけて、俳誌・ホトトギスに断続的に連載します。それと並行して次々に短編小説を発表しました。例えば1月に倫敦塔(ろんどんとう)、カーライル博物館、4月に幻影(まぼろし)の盾、5月に琴のそら音、9月に一夜、11月に薤露行(かいろこう)というスピードで。これらはイギリス留学の体験に基づく内容であったり、幻のような内容であったりと、漱石の試行錯誤が感じられます。中でも今回の琴のそら音は、今を生きる私たちが読んでも少しも古さを感じさせない作品です。400字詰め原稿用紙60枚、2400字の短い作品です。法を学んだ主人公、靖雄は近く結婚を控えた勤め人、文学士で心理学者でもある友人、津田は幽霊の研究をするような人物で、津田の家を訪れた折に、彼の口から靖雄を不安にさせる話を聞くのでした。帰宅の途につく靖雄には、いつも通る地名さえも不吉に感じられてきます。冒頭の若々しく楽しい男たちの会話から中盤へのホラー展開、不安がピークに極まったところで、最後のパッと明るいシーンへの展開の見事さに脱帽です。今回もまた、漱石先生に「参りました」と言ってしまう作品です。

<本田>ではここからは3人で作品の魅力や感想についてお話ししていただきましょう。

<西口>井上さん、倉本さん、今日はよろしくお願いします。

<高校生>よろしくお願いします。

<西口>可愛い声の2人と今日は話すことができます。頑張りましょう。今日は、琴のそら音という作品ですよね。この作品をなぜ選んだか、井上さん、話してください。

<井上>はじめ、アイラヴ漱石先生の本をパッと見て、そら音っていうものがあって、音楽の話かなって思って、それを選んで読みました。

<西口>そうだよね。きっとね、琴のなんかいい音がするような音楽だと思ったのね。

<井上>はい。

<西口>しましたか、いい音が。

<井上>しませんでした。

<西口>しませんでした?じゃあ、がっかりした?

<井上>しませんでした。

<西口>がっかりしなかった?なぜ?

<井上>話が面白かったからです。

<西口>話のどこが、何が面白かったのか教えてください。

<井上>本のいろんなところにちょっと怖い名前や表現が使われているところで、ホラー的な作品になっているけど、最後はほっこりするような展開だったからです。

<西口>はい。楽しい、最後がハッピーエンドになっているというところも、ちょっといい感じだもんね。

<井上>はい。

<西口>倉本さんはどうですか?この作品を選んだのはなぜ?

<倉本>最初は、パラパラって本をめくった感じだと、怖い話なのかなって思ったんですよ。私、怖いのめっちゃ好きなんですよ。だから、怖いの読みたいなと思って選びました。

<西口>ということは、この本を読んで、面白いと感じた部分というか、興味を持ったのは怖い部分なんですか?

<倉本>怖い部分もそうなんですけど、怖さもあるけど、中にはあったかさもある、そういう話の最後に読者にめっちゃ怖がらせない感じに、本当はいい話だよみたいな感じの終わり方っていうのが面白いなと思いました。

<西口>そこをちょっともう少し詳しく語ってもらおうか。この作品が面白いって感じたんでしょう?どこら辺に面白さを感じたか、話してみてください。

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