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「道草」すごい執念深いというか、しつこく、したたかな印象<アイラヴ漱石先生朗読館=2023年1月8日放送>
#読むラジオおはようございます。本田みずえです。夏目漱石の作品について理解を深めたい、漱石について詳しく知りたい、そんな人たちに向けて書かれたガイドブック、アイラヴ漱石先生が令和4年4月に発刊されました。夏目漱石は、第五高等学校の英語教師として、生まれ故郷以外の土地では最も長い4年3カ月を熊本で過ごしました。この番組では、そんな漱石先生の文学の面白さを探究していきます。今日は特別編として、熊本大学3年生の清田晴香さん、野本真友梨さんと、漱石の長編小説、道草の魅力を探っていきましょう。解説は、元高校の国語の先生でした西口裕美子さんです。この番組は、NPO法人くまもと漱石文化振興会、熊本大学文学部附属漱石八雲教育研究センターの協力でお送りします。
<朗読>「道草」
「片付いたのは上部(うわべ)だけじゃないか。だから御前(おまえ)は形式張った女だというんだ」細君の顔には不審と反抗の色が見えた。「じゃどうすれば本当に片付くんです」「世の中に片付くなんてものは殆(ほと)んどありゃしない。一遍起(おこ)った事は何時(いつ)までも続くのさ。ただ色々な形に変わるから、他(ひと)にも自分にも解らなくなるだけの事さ」健三の口調は吐き出すように苦々しかった。細君は黙って赤ん坊を抱き上げた。「おお好(い)い子だ好い子だ。御父さまの仰(おっ)しゃる事は何だかちっとも分りゃしないわね」細君はこう云(い)い云い、幾度(いくたび)か赤い頰(ほお)に接吻(せっぷん)した。
<本田>それでは今日は特別編ということで、熊本大学3年生の清田晴香さん、野本真友梨さんと漱石の長編小説、道草の魅力を探っていきましょう。まず作品の解説を、元高校の国語の先生でした西口裕美子さんにお願いします。
<西口>道草は1915年、大正4年6月3日から9月14日まで、102回にわたって朝日新聞に連載された、漱石48歳の時の長編小説です。漱石自身の自伝的作品とされています。処女作の吾輩は猫であるを書いた1905年、漱石38歳当時の生活を基にして書かれたものです。主人公の健三は漱石、金をせびりにやってきては健三を悩ます島田は漱石の養父・塩原昌之助、そのほか実在の人物がモデルになっています。吾輩は猫である以降、大学から帰宅して机に座れば苦もなく書き上げていたという漱石ですが、この道草執筆の際には、机の横に書き存じの反故が5、6寸積まれていたと門下生・内田百閒は回想しています。それほどに漱石はこの作品に執着していたのでしょう。健三に金を無心するのは島田だけではありません。健三の兄や姉、妻の父親も財産を失い生活に苦しんでいました。大学の教授だからお金があると思ってみんなが寄りかかってきます。健三は当然不機嫌です。幼子を抱え、不機嫌な夫を支え生活をやりくりする妻は、時々ひどいヒステリーを起こします。夫婦には行き違いが起こり際どいバランスが取られています。全てはお金がないということから起こる不幸です。人間関係とお金の悩みを解決するために、自分の時間と努力を費やす健三は、作品の最後で世の中に片付くなんてものはほとんどありゃしない、一遍起こったことはいつまでも続くのさ、と吐き出すように言います。この言葉、そして道草という本のタイトルの意味とは。
<本田>ではここからは3人で作品の魅力や感想についてお話ししていただきましょう。
<西口>清田さん、野本さん、今日はよろしくお願いします。
<大学生>よろしくお願いします。
<西口>お二人は大学3年生ということなんですけども、漱石は好きですか、野本さん。
<野本>私は漱石の作品を文学部で扱うまではあまり知らなかったんですが、読んでいくうちに作品の面白さに気づいて、漱石が好きになりました。
<西口>清田さんはどうですか。
<清田>はい。熊本大学が夏目漱石が昔教弁をとっていた学校であることも関係して、授業でよく夏目漱石の作品が取り上げられるので、身近な存在に感じていて、接する機会が多いので、読んでいくうちにどんどん夏目漱石自身も好きになっていきましたし、作品自体もすごく好きです。
<西口>そのお二人が今回はなぜ道草を選びましたか。野本さん。
<野本>はい。私はこころを研究しているので、こころの翌年に書かれた道草は、こころの作品の需要があるのではないかと考えたのと、漱石の自伝的小説でもあるので、漱石の価値観などに触れられることができるのではないかと思い、道草を選びました。
<西口>面白かったですか、清田さん。
<清田>はい、面白かったです。
<西口>特にどこが印象に残りましたか。
<清田>そうですね、最後のシーン出産のシーンがとても印象に残って、自分の生まれてくる子供が女の子だと分かって、同じような子を産んで何になるのかというふうに、少し自分の妻を批判するんですけど、それに対して自分の責任は考えていないみたいな冷静なツッコミも作品内にされていて、それもすごく面白いなというふうに感じましたし、結局自分の子供が生まれたら、風邪ひかないように必死に脱脂綿を子供に押し当てるみたいな、憎めないところもあるなというふうに、健三の人となりが感じられるシーンですごく好きです。
<西口>そうですね、漱石と健三が重なっているけども、その人となりが感じられますよね。後で脱脂綿が足りなくて困ったというようなシーンがありましたね。他に、島田という金を無心しに来る漱石にとっては、養父である塩原のイメージで描いてあるんだけども、彼の在り方については何か思うところがありますか?
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